しろい球体

私は夢をみていた。さめない夢。時限爆弾のような夢。孤独な夢。悪魔の夢。しろい夢。

テストの解答欄のような空白で満たされた不思議な空間。風邪をひき、高熱にうなされると私の意思とは無関係に、強制的に転送される悪魔の白い拷問部屋。おそらく、どちらをむいても白いペンキで塗られた壁にみえるだろう。今おそらくと言ったのは、私は首を自由に動かせないからだ。頭部を空気の器具できつく固定されているとでもいったふうに。

きたか、またこの夢か……

すると突然その部屋の中央に、まるで私が来るのを待ち侘びていたかのようなタイミングで白い球体があらわれる。サッカーボール二つ分にあたいする大きさで、それひとつ分ほど私の正面から離れており、ちょうど私の眼の高さと同じくらいの位置に浮遊している。それは艶やかで摩擦力のないゴム毬のような伸縮性を持った性質で、大きく膨らんだり、ちいさく縮んだりする。

しかも、いやらしいことに、なんともいえない心地のよい速度で伸縮を繰り返すのだ。これが私の不安を愚鈍に増大させる原因となる。

眼の前で飽きることなく幾度も伸び縮みする白い球体は、やがて私の口の中に飛び込んできて、それまた同じように伸縮を繰り返す。膨らむたびに抵抗しきれない理不尽な力で強制的に口をこじ開けられ、私の顎は張り裂けそうになっている。くちのなかで居場所を失くした舌は十六本の歯に囲まれた下顎のかすかな隙間で、押し潰された生肉のようにひしゃげて哀れな姿をさらしている。

しかし、不可解ながら痛みは感じないようで、そのことがかえって私の恐怖の種を芽生えさせる大地に豊饒をもたらす根源となった。

一秒、一分、一時間、あるいは一日? 時間が存在しない夢のなか。私は孤独だった。孤独という概念が凝固した夢の世界。私だけの、私の為に、私に用意された夢。未来永劫を意識させる、夢のように長い夢。

しろい球体がピンポン玉ほどの大きさまで縮んだ瞬間を見計らい、ヒキガエルのように──などとは言っていられないのだが──喉を大きく鳴らして唾を飲みこむ。縮んだとはいえ、それでもピンポン玉ほど大きい。

はき出してしまいたいが、できない。それはもう何度もやってみた。そのたびに白い球体が喉のほうへ滑りこんでしまった気がして、気が狂いそうになる。全身びっしょり汗をかいている。一度や二度うまくやり過ごしたところで、すぐにまた次がやってくる。一息つく暇などありはしない。一切の容赦なく、機械的で無慈悲。残酷で、無機質な白い悪魔の化身。

この不安と恐怖による混沌と戦いながら、私はたったひとり、はき気に耐え続けているのだ。

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