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無様に酩酊して宿痾の絶望と対峙している。

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無様に酩酊して宿痾の絶望と対峙している。

最近の記事

逃亡

少しの間だけでいい、おそらく、あまりながくは居られないだろう。それは星の瞬きより刹那的かもしれない。ここには昵懇の間柄は居ない。身を匿ってくれる味方も存在しない。静謐な森の中に身を横たえ、満月の晩には擦り減った魂を癒しながら、小鳥の囀りで歌をうたい、無音に近い風のささめきに耳を澄まして平穏な心持ちで過ごしたい……外部からの不安や恐怖、孤独、苦痛など、身も心も押し潰そうと低い悲鳴をあげる重力から、ひと時の無重力的解放感を味わいたいだけなのだ。

    • 贋物

      夜になれば、世界のすべての秩序が元通りになると思っていた。もろく崩れ去った造花の薔薇が夜の静けさを得て、本物の薔薇のように品性を取り戻してくれるものだと信じていた。 だが、現実は残酷で、あまりにも優しかった。 その優しさに甘えすぎた結果、輪郭に触れることのできない影のような私が誕生した。実体のない抽象的な存在、それが私なのだ。

      • しろい球体

        私は夢をみていた。さめない夢。時限爆弾のような夢。孤独な夢。悪魔の夢。しろい夢。 テストの解答欄のような空白で満たされた不思議な空間。風邪をひき、高熱にうなされると私の意思とは無関係に、強制的に転送される悪魔の白い拷問部屋。おそらく、どちらをむいても白いペンキで塗られた壁にみえるだろう。今おそらくと言ったのは、私は首を自由に動かせないからだ。頭部を空気の器具できつく固定されているとでもいったふうに。 きたか、またこの夢か…… すると突然その部屋の中央に、まるで私が来るの

        • 未題作

          君は夢遊病者のふらふらとした覚束ない足どりで階段を上がっている。焦らなくていい、一段いち段、紙を数えるように階段をあがるのだ。別に酔っているわけではないが、躓かないに越したことはないだろう。 最後の一段は踏まずに跨いだほうがいい、骨が擦れたような軋み音で屋敷の主人が眼を覚ますと厄介だ。何故なら、君は君の人目を憚る行動を誰にも見られてはいけないのだから。 薄暗い廊下の正面に立った君は、あたりの静けさに不穏な空気を感じて様子を窺うが、誰もいない。今そこには君しかいないのだ。君

        逃亡

          這うもの

          本を読む気分ではない私は退屈を紛らわそうと布団の上で仰向けに寝転がり、天井に張りついた得体の知れない生き物を目で追いながら闇が夜の淵まで完全に染め上げるのをじっと待っていた。 その生き物は、見紛うことなく敝衣蓬髪の自分とまさに瓜二つで、水がゴボゴボと排水管を流れるような声をあげながら、天井の木目にそって這いずりまわっている。 天井の私──あれを私だとは決して認めたくなどないが、そう呼ばざるを得ない心境なのだと理解してほしい──は布団の上の私には目もくれず、ただ、這う。天井

          這うもの

          無計画的逃亡

          特に書きたいことなどないのだが、落ち着かないので、眠る前になにか記しておこうと考えた……が、何を書くべきなのか皆目検討もつかないまま句点まで到達してしまった。 私はあれこれ思案に耽るより直感を信じて行動するタイプの人間だ……ならば、考えるより先に手を動かすことを優先するべきだろう。 私がnoteを開始するに至った理由は、SNSに居場所を失ったから──元々インターネットに居場所も糞もないのかもしれないが──。とにかく、私は殺人の犯行を人に見られたとでもいうように、そのサイト

          無計画的逃亡