這うもの

本を読む気分ではない私は退屈を紛らわそうと布団の上で仰向けに寝転がり、天井に張りついた得体の知れない生き物を目で追いながら闇が夜の淵まで完全に染め上げるのをじっと待っていた。

その生き物は、見紛うことなく敝衣蓬髪の自分とまさに瓜二つで、水がゴボゴボと排水管を流れるような声をあげながら、天井の木目にそって這いずりまわっている。

天井の私──あれを私だとは決して認めたくなどないが、そう呼ばざるを得ない心境なのだと理解してほしい──は布団の上の私には目もくれず、ただ、這う。天井の木材を舐めているようにも見えるが、やはりただ這うだけで……他になにをするわけでもなく、屍肉に湧いた蛆虫のように身の毛もよだつ不快感を撒き散らしながら、ただ、這うのだ。

灰色の襤褸な布切れを身に纏った醜悪な肉の塊からはひどく耐えがたい悪臭が立ち込め、真下にいる私の鼻腔にこびり付く。それは鹿や猪など、けもの特有の生臭さによく似ている。千切れんばかりに伸びた煤色の髪が天井の板にすれて渇いた音をたてる。その残響を引きずるようにして、狭い二次元空間を這いずりまわっているのだ。

この生き物はいつから生きているのだろう、という一つの疑問が浮かんだ。おおよそ見当もつかないし、そもそも考えたくもないことだが、その奇異的な形容から察するに……おそらく私と同じ、あるいはそれに等しい歳月を生きてきたのだろうという結論に至った。

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