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『となりのナースエイド』知念実希人【先生のための本棚-オススメ医療作品】

こんにちは!代ゼミ教育総研note、編集チームです。
代ゼミきっての読書家 Hさんオススメの医療に関する小説、2冊目です。
本日は最近ドラマ化もされて話題になった作品をご紹介!

1冊目はこちらから☟



『となりのナースエイド』知念実希人(角川文庫)


ナースエイドという職種をご存じでしょうか。ナース(看護師)の仕事はイメージしやすいかもしれません。では何が違うの? という方も結構多いのではないでしょうか。

ナースエイドは看護助手や看護補助者とも呼ばれ、病院や介護施設などで看護師のサポートをする仕事です。厚生労働省の資料では、その役割を次のように説明しています。

「看護補助者は、看護師長及び看護職員の指導の下に、原則として療養生活上の世話(食事、清潔、排泄、入浴、移動等)のほか、病室内の環境整備、ベッドメーキング、看護用品及び消耗品の整理整頓等の業務を行う」(一部省略)

厚生労働省Webサイトより

ナースエイドは資格を持たなくても医療現場で従事できます。ですが、医療行為は許されません。食事の介助や患者の移動・体位変換の他には、血圧・体温測定、軟膏の塗布や湿布の貼付などしか許可されていません。

しかし、ナースとの区別がつかない人も当然いますよね。本書でも、痰の吸引を自分はできないと言う主人公に、目の前で苦しげに喘ぐ患者の家族が食ってかかる場面があります。
また、病院内でのヒエラルキーで最下層にいるナースエイドを「ど素人の雑用係」と見下す医師やナースもいます。

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本書の主人公、星嶺大学医学部附属病院にナースエイドとして入職して一週間の桜庭澪もその洗礼を受けます。主任看護師から「なんの資格もないくせに我が物顔で医療現場にいる雑用係」と嘲笑されます。

そんな澪を、ベテランナースエイドが「医療現場では本当は上下関係なんてないんだから。ドクターも、ナースも、そしてナースエイドも同等なの」と励まします。
驚く澪に先輩は続けます。「医療行為ができず、雑用をこなすだけの私たちは、医療については『素人』かもしれない。けれど私たちは間違いなくプロ。ドクターが『患者さんを治すことのプロ』、ナースが『医師をサポートすることのプロ』なら、私たちは『患者さんに寄り添うプロ』ね」と。その言葉に澪はナースエイドになって良かったと改めて思います。患者に寄り添い、同じ目線で支える。それこそが澪が望むものだったからです。

実は、以前澪は外科医でした。奇病にかかった姉の気持ちに寄り添うことができず、その結果、大切な姉を死なせてしまったという思いがPTSDとなり、医療行為ができなくなっていました。
それでも医療現場で働くことを望んでいた澪は、総合外科主任教授の勧めもあってナースエイドになりました。医療行為をしないで患者に寄り添うことができる、澪のしたかった、するべきだった理想の医療ができると考えたからです。

その澪と真っ向から対立するのが、知識と高度な技術によって疾患を治癒させることが医療の究極目標と信じて疑わない天才外科医の竜崎大河です。

患者や家族に寄り添い、できるだけその声に耳を傾け、不安を取り除くことは大切な医師の仕事のはずと訴える澪に、技術至上主義の竜崎は断じます。

(竜崎)「医療に不純物は必要ない。深い知識と、磨き上げられた技術、そしてデータに基づいた合理的な判断、それこそが患者の命を救う。『感情』が入り込む余地はない」
(澪)「感情が不純物⁉」
(竜崎)「ああ、まぎれもない不純物だ。感情は判断を揺らがせ、技術を鈍らせかねない。それらを徹底的に排除した先に、理想の医療がある」

理想の医療について相いれないふたりですが、患者を救うという目的は同じです。様々な患者と関わっていく中で、歩み寄るふたりですが……。

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本書は医療サスペンスです。主軸は澪の姉の死の真相追究です。竜崎も胸に闇を抱えているのですが、謎を解明していく過程で、その闇の正体も浮かび上がってきます。どんな結末が待っているのか――。どうぞ、本編をお楽しみください。
 
ナースエイドは未経験・無資格で働けるため、幅広い年齢層が医療現場で活躍しています。「医療現場で働いてみたいけど、自分には医師や看護師になるのは無理だな」なんて生徒さんがいたら、そっと本書を薦めてみてください。また、現場で学んだ医療の知識や介助経験は、人材の需要が増加している介護系資格取得にも役立つはずです。
 
作者の知念実希人先生は現役の医師です。医療現場のリアリティを窺い知ることができる作品が多数ありますので、医療全般に興味がある生徒さんにはお薦めです。



次回は、ハートウォーミングな医療小説をHさんがご紹介します。
お楽しみに!

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