『大学入試の共通試験改革をめぐるポリティクス「拒否権プレイヤー論」による政策過程分析』【先生のための本棚】
こんにちは!代ゼミ教育総研note、編集チームです。
先生のための本棚、第2回。
今回は非常に読み応えのある一冊です。
ライターは 奥村直生 研究員。
大学入試に精通している研究員が、付箋をつけて読み込んだ一冊です。
分厚い学術書ですので、万人向けというよりは、入試改革にものすごく関心や恨み・不信感・疑問がある人向けといってもいいかもしれません。
まずは奥村研究員の書評を読んで、この本を読むかどうかご判断いただくのもよいかと思います。(書評を読むだけでも学びがありますよ😊)
前置きが長くなりましたが、本日の一冊はこちら。
『大学入試の共通試験改革をめぐるポリティクス「拒否権プレイヤー論」による政策過程分析』
中村 恵佑 著/東京大学出版会
▶共通試験の歴史解明にパラダイムシフトをもたらす、新たな視座
2025年より新学習指導要領に基づき、装い新たになる大学入学共通テスト。
新たに加わる「情報」や「歴史総合」などには大いに注目が集まっており、高等学校や受験生たちは準備に暇がない日々を過ごされていることでしょう。
ところで、共通テストはなぜ、いまのカタチになったのか?
こうした疑問を、2021年からはじまったこの共通テストを含め、これまで大学入試において実施されてきた代々の全国統一の共通試験について、文科省や大学の団体等のアクターたちのポリティクスにスポットを当てて見ごとに分析・解明する刺激的な著作が登場しました。
著者の中村氏は、政治学で使われる「拒否権プレイヤー論」の理論という枠組みを使って、共通一次、センター試験、共通テスト、そして、学びの基礎診断までも含め、それぞれが生み出されるまでの経緯を、アクター(個人・団体)の数、選好、結束力が左右することを解明してみせています。
今後、教育や入試に関して、重要な政策を作り上げていく際には、まずアクターたちを誰にするのか、そして演じてもらうための舞台やアリーナの設えをどうするのかが、いかに大切かを、この中村氏が鮮やかに示した分析は示唆しているとも言えます。
💡研究員はこう読み解く
ところで、共通テスト導入の波乱万丈の経緯をいまいちど顧みると、英語4技能試験導入など、いくつもの企てが頓挫し、“中途半端”な部分を残したまま、いわば見切り発車ではじまってしまっていたことを、多くの方は忘れかけているのではないか、、、私はとても危惧しています。
ところが、かつて文科省や中教審等などで、あれほど活発にオープンで行われてきた一連の会議は、いまはほぼ休止状態。
そうした放置されたままになっている問題点は勿論のこと、大学入試や大学入学者選抜全体について、18歳人口の減少や、総合型選抜などの特別選抜が優勢になるなど状況が大きく変化するなかで、未来を担う受験生たちにとって、入試や入学者選抜が、目指すのに値するものにするための議論は決して怠ってはならないはずです。
もちろん、巨大な入試制度である共通試験政策の生成過程すべてを、この「拒否権プレイヤー論」のみで語りつくすことには無理があるでしょう。
しかし、高大接続改革が巻き起こしたあの大失態を再び繰り返さないためにも、中村恵佑氏が大胆に持ち込んだ斬新な手法は、今後欠かせない視座や教訓の一つになることでしょう。
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なお、この著作に収められた膨大な文献・資料は、重要なポイントがきちんと整理・網羅されていますので、これから大学入試の歴史や流れを的確に学びたい人にとっても、うってつけの一冊になることを付け加えておきたいと思います。
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📝ミニレポート
北海道大学・高等教育推進機構では、去る6月1日・2日の二日間にわたり、この新著に関するセミナーを開催しました(奥村研究員も参加)。著者の中村氏も招き、全国から集まった若手研究者たちや高校教員らが白熱の議論を展開しました。
(活動内容の詳細はこちらでご確認いただけます↓)
中村氏は今後さらにフィールドを広げ、入試に関する新たな著作も準備されているとか。今後の活躍が大いに期待されます!
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