曲名を知らない
部活で副部長になった
同級生(前記事)が部活に来ないものだから、自分のポジション以外も頑張って覚えた
相変わらず同級生は部活に来ず、先輩達の苛々が募っていくのがわかる
自分以外に向けられる敵意もストレスだった
部長になった3年生
部長になってからはほぼ一人で部活を仕切って後輩を指導し引っ張っていた
悩みも個人個人聞いたし、後輩ひとりひとりと向き合って部活の雰囲気や相続をなんとか保っているような感覚だった
顧問やコーチ、生徒会との連絡も全て一人でこなさなきゃいけなかった
引退試合一週間前
「私、最後の試合出ないから」
そう言い放ってすたすたと歩き去ったのはペアを組んでいた同級生
ソフトテニスはダブルスで試合がある
慣れない後輩と急遽ペアを組み、息を合わせる練習の余裕すらなく初戦で敗退した
それが私の引退試合になった
癪で悔しくて、後輩の前で初めて泣いた
中学3度めの夏も私は集合写真の中一人カーディガンを着ている
夏休み明け、文化祭が終わった後くらいから体が鉛のように重く感じ、どんどん動かなくなっていく
そのなかでも必死で授業に出席をしては退席し、保健室で休むことをまだ繰り返していた
ある日いつもどおり保健室にいたらカーテンの向こう側にペアを組んでいた同級生、息が吐けなくなって吸えなくなって、目眩がした
何もわからなくなった
気づいたら人生で初めて過呼吸になっていた
保健室にすら行くのが怖くなった
それからは授業にも出ず、保健室にも行かず、カウンセラー室へ行き、毎日、毎日、折り紙で花を折っていた
折った花はセロハンテープで飾った
部屋の壁、ソファ、ドア、机、椅子、窓。
カウンセラー室は私の折ったダリアの折り花で埋め尽くされ、私はその部屋の中で壁の隙間を埋めるようにダリアを折り続けていた
ただただ一種類の折り紙に夢中になる様は幼児のようだったのではないか
季節は秋、ちょうど今頃だ
銀杏が落ち、肌寒く空気が澄み、ほのかに金木犀の香りを感じるようになる頃。
いつもどおりカウンセラー室に行こうとしたある日、廊下で急に過呼吸になった
学校にいるはずなのにここがどこだかわからない、とパニックになり、廊下をぱたぱたと走り回った
苦しかったし次第に手足がしびれて感覚がなくなった
なきじゃくりながら走る私に下級生の視線が刺さった
もしかしたら走れてさえいなかったのかもしれない
通りすがった先生に抱きしめられて、パニックが収まり、カウンセラー室まで行った
その日は合唱コンクールの日だった
カウンセラーの先生に連れられて、私は皆の合唱を講堂の一番うしろで耳にしていた
コンクールの結果、私のクラスは優勝した
皆結果が出た途端立ち上がり、ハイタッチをして抱きしめあっていた
私には皆が丸く集まりお互いを讃え合う様子がが眩しい光の輪っかのように見えた
私がいなくても時間は進んで、私がいないことに関係なくクラスは優勝を勝ち取った
そのことが私の孤独感をより一層煽ったのだろう
その日は二度目の過呼吸を起こした
そこから、カウンセラー室にさえいくのが怖くなった
受験期、進んでいく同級生を目にしたくもなかった
カウンセラー室に行くのは週に一度になり、残りは区の施設で勉強をした
最後、卒業式だけ出て、他には何にも参加しなかった
これがわたしの中学校の記憶だ
まだ私は合唱コンクールで自分のクラスが歌っていた曲の名前を知らないままだ
文字に起こすことで精算しているような気持になります