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世界的ロングセラー:絵本「おおきな木」を今ならどう読む?

私が「おおきな木」に出会ったのは小学生の頃。1964年にアメリカで出版され、1976年に日本で出版されました。30カ国以上で翻訳されていて、今なお売れ続けているロングセラーの名作です。10年前に村上春樹さんが翻訳をしたことで、再び脚光を浴びましたよね。

私とこの本との関係は、思い立ってふと読み返すような大切な絵本なのです。作者のシェル・シルヴァスタインさんが亡くなって21年経ちますが、今も売れ続けているということは、年代問わず、心に深く印象づけられている人が世界中にいるということですよね。国境を超えて心に残るメッセージが何なのか、改めて考えてみようと思います。


知っている方も多いと思いますが、ひとりの男性とりんごの木が、共に年を重ねていく様子を描いた絵本です。

<あらすじ>
ひとりの少年と木はとっても仲良しでよく一緒に遊んでいました。
ですが、少年が成長し思春期を迎えると、次第に木と過ごす時間が少なくなっていきます。

大人になった少年は久しぶりに木に会い来たのですが、楽しく時を共にするのではなく、木にお願いをしに来ます。木は喜んで彼の願いを聞き入れます。

それからまたしばらく会わない時があり、また再会したのですが、その時にも彼はお願いをして木は助けてあげました。

何度もお願いをしに来るだけの彼に対して、いつも優しく要望に応えていた木ですが、さすがに元気がなくなってしまいます。それもそのはず、彼にあげられるものは、もう切り株しか残っていなかったのですから。

そんなある日、ひょっこり彼が木に会いに来ました。今度はお願いをしに来たのではなく、木に会いに来たのです。

年を取り、もう欲しいものは何もないと。木はとても嬉しくなりました。かつてのような太い幹もりんごの実も、ふさふさの葉っぱもないけれど、その切り株を精一杯伸ばして、彼を座らせてあげました。おわり。


あらすじはこんな感じですが、見る人によって色々な解釈があるようです。
・自然と人間の関係性のメタファー(隠喩)
・男性性と女性性のメタファー(隠喩)
・生まれ、成長し、老いていく人の一生の描写
・無償の愛について
・りんごの木に手を出す = 人間の原罪 というキリスト教的な視点

解釈は人の数だけあると思うのですが、調べてみると、そう捉える人もいるんだ!なるほどーと、また新しい発見があり楽しかったです。

私はというと、子供の頃に出会った本なので、年を重ねるごとにまた捉え方も変わっていることに気づきました。


<子供の頃>
関係性がうんぬんなど上記のような解釈はしておらず、「人には優しくしましょう」「困っている人がいたら助けましょう」「お友達とは仲良くしましょう」のような、ある種道徳的な本だと思っていました。
あとは、鮮やかな黄緑の表紙、それとは正反対のモノクロの線画のイラストの本文、そして裏表紙のシェル・シルヴァスタインさんの大きな写真(←子供心にこの装丁が謎ではあった。村上春樹さん翻訳版にはなくなっていましたけれど)といった、絵本そのものが好きで心に残っていたんだと思います。

こちらが作者のシェル・シルヴァスタインさん。この写真が絵本の裏表紙に大きく配置されていました。

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<20代の頃>
デザイナー修行中で、装丁やイラストにより興味を持っていた時にまた思い出しました。成人していたので、子供の頃よりもう少し深く読み取れるようになったのですが、上記で言うなら男性性と女性性のメタファーなのかな?と、この頃は思いました。りんごの木を母性として見る人もいるようですが、大きく考えるとそうかもしれないですが、もう少し恋愛に近い男女関係だと思います。なぜならば、ハートマークを木に彫っているから。アメリカではハートマークだけれど、日本でいうなら相合傘かな?相合傘を書くのはやっぱりお母さんではなく好きな人。ですよねー、うふふ。

有名なたとえですが、自由に動き回ることができずに待つだけの木は港、冒険に出かけてたまに戻って来る男性は船のようだな、とも思いました。いつまでたっても男性は少年、なんですかね。


<ここ数年>
ニューヨーク留学を終え、英語をより理解することができるようになったのと、本屋さんで英語版を買うことができたので、チャレンジしてみました。

まず驚いたのがそのタイトル。日本語では「おおきな木」ですが、原文は「The Giving Tree」なのです。直訳すると「与える木」です。「与える」という行為を愛情深くて心が広い「大きな心の持ち主」と捉えると、「おおきな木」ですがそこまで考えが及んでいなかったので、日本語だけで読んでいた時は、単純にその木が背が高くてりんごがたくさん実るから「大きい」と思っていました。。「与える」という意味を込めての「大きい」とした翻訳は見事です!

そして、英語では、木のことをShe(彼女=女性を指す代名詞)と表現します。これも驚きました。女性と思うと、また解釈が変わってきますよね。

あとは、漢字かなカナ問題にこだわりがある私は、「大きな木」ではなく、「おおきな木」とした所にも注目。素晴らしいセンスだと思いました。ひらがなの方が、その木の優しさとおおらかさをより表現できると思ったからです。

原文を知ると、その翻訳方法も気になってしまい、子供の頃、20代の頃とはまた違った角度が見えてきたので、とても面白かったです。自分のことだけど、同じ人間なのに感想が違うって不思議ですね。


懐かしい!読んだことあるよ!という方もいるかと思います。きっと、あの頃と今とでは感想が違うと思いますよ。興味がある方は是非手にとってみてくださいね。


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