『誰かの赤面』
わたしは人の言葉に惹き込まれる癖があって、気がつくとよくその人の世界に入り込んでいることがある。
それは夢のようでもあるし物語のようでもあるし現実のようでもあるけど、要するに何だっていいのだ。それが、三つのうちのどれかなんてよくわからない。
このあいだもある人と話していたら、少しづつ景色が溶けていって、わたしはその人の世界にすっかり入り込んでいた。
するとその人のもう一人が私の隣に座って「あなたが見てる世界は、この人のものとはずいぶんと違うものだってことが分からないのね」と言った。わたしは入り込んでいるようで、全然入り込んでいなかった自分を恥じて顔を赤らめた。
恥ずかしい思いはあまりしたくない。だからもうそんな思い上がったことは考えないようにした。わたしは私の言葉だけを大切にしようと決めていた。でも出来なかった。このあいだ、もう一人の私がきて、お前の言葉はつぎはぎだらけだからどういう世界にいたいのか全然わからないな、と言った。
私はわたしがどういうつもりでそう言ったのかが全然わからない。
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