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私が教育のジェンダーギャップ是正に関わるわけ──ソーシャルジャスティス基金・パネルディスカッション企画より

 皆さんこんにちは。#YourChoiceProject ライターの たけ です。

 今年(2024年)の6月8日に、「ソーシャルジャスティス基金」が企画する教育上のジェンダーギャップの解消を考えるためのパネルディスカッションに、「当事者ではない立場の人間」として登壇する機会をいただきました(こんなことは初めてだったので、実はかなり緊張しました)。その時に私が話した内容は原稿という形でまとめてあり、#YourChoiceProjectの記事としても公開できそうだということに思い当たって、このように記事の形にまとめました。
通常の記事とは違い、喋っているような文体になっていますので、普段とは違う感じでお楽しみいただければと思います。
※一般公開するに当たって、一部カットした部分がありますがご了承ください。

パネディス発表内容

 ただいまご紹介いただきました、#YourChoiceProject所属、東京大学2年の武 功翼と申します。本日はよろしくお願いいたします。

 まずは軽い自己紹介をさせていただこうと思います。私は中学高校と「早稲田中学高等学校」というところに通っていまして、そこから東大を目指し、2023年に理科一類に合格しました。みなさんもご存知かもしれませんが、私の卒業した早稲田高校はかなり進学実績の良い高校でして、私の年もかなりの人数が東大に行きました。

 しかし、大学に入った後で、地方にいくと「女子だから」というだけで東大に行かせてもらえないことがあると知ったことから、今私たちが扱っている問題に関心を持ち始め、去年の7月から弊団体に所属しています。ここまで私が何を考えてきたかについて、これからお話しできればと思っています。

 さて、私の話では、以下の3つのテーマに沿ってお話ができればと思います。1つ目が「私が教育のジェンダーギャップ是正に関わるわけ」、2つ目が「実際にこの活動をしてみてどのように感じたか」、3つ目が「日本社会にある課題と、その解決策」です。

「私が教育のジェンダーギャップ是正に関わるわけ」

 まずは、1つ目のトピックから行こうと思います。私は東大合格時、ただただ「化学を研究したい理系の大学生」として東大に入っています。一応東大の教養課程を利用して幅広い勉強をしたいなぁとは思っていたのですが、この時は東大に存在する男女格差などには微塵も興味がありませんでした。それこそ、「東大入試はテストの点数だけで決まるのに、どうして格差が生まれるというのだろうか?」というように、このことに問題意識を持つことにすら疑問を抱いていた節もありました。

 ところが、東大で初めて受けた授業で、その考えが変わったんですよね。私は男子校出身だったということもあって、自分とは異なる性別を生きる人たちへの理解が全く足りていないんじゃないかと思い、たまたまシラバスで見つけた瀬地山 角先生の「ジェンダー論」という授業をとってみました。その授業では一番最初に、教育におけるジェンダーギャップの話から始まるのですが、その時に示されたデータがありまして、それがこちらです(図1)。

図1:ある地方の高校の男女別進学実績

 
 これはある地方の高校の進学実績とのことなんですが、この通り東大と京大には女子が全くと言っていいほど進学しません。浪人の欄を見ても、東大京大はおろか旧帝大の進学実績さえも、女子の場合は落ち込んでいます。先ほど私は「東大入試はテストの点数だけで決まるのに、どうして格差が生まれるというのだろうか?」というかつての考えを申し上げましたが、到底それでは説明のできない異常事態。ここで難関大学の女子率には、構造差別といった社会的な要因も絡んでいるということを知りました。

 これを知った時はかなりショックを受けました。みんなが揃って東大を目指す環境にいて「なんとなく」東大に受かっているとあまり意識しないのですが、そこから視野を広げるとこんなにもひどい状況にあるということを知りもしなかったのです。一度知ってしまうと、「自分は正しい意味で東大生という資格があるのか?」「自分の他に東大に入るべき女子がどこかにいたのではないか?」というふうに感じました。

 で、この問題を放置してはいけないと思い、最初は個人でこの問題を解決できないかなぁと考えていました。それが去年(23年)の6月ごろのことなのですが、当時は地方には予備校などの教育資本が少ないことが格差につながっているのではないかと考えていました。そうこうしているうちに、先ほどと同じジェンダー論の授業で#YourChoiceProjectの代表のお2人が登壇されているのを見て、ここで活動しようと決断し、今に至ります。

 以上で1つ目のお話を終わります。

「実際に活動してみてどう感じたか」

 続いて2つ目のトピック、「実際に活動してみてどう感じたか」についてお話ししようと思います。

 こちらについては、先に結論から言ってしまおうと思います。結論は、「この取り組みに誰かが関わるということは大いに意義がある」ということです。なぜそう思うのかをこれからお話ししようと思います。

 私は#YourChoiceProjectの他に、単なるサークルとして「E.S.S.」にも参加しているのですが、#YourChoiceProjectについて私がこのサークルで話題にしたところ、その場にいた1人から「偉い」という反応が即座に返ってきました。この2人は特段ジェンダーギャップや男女共同参画に興味がある人物ではないです。それでもこれだけのリアクションが得られるということで、この取り組みは非常に意義にあることであるというのが、この例からもわかると思います。

 また、私はE.S.S.では英語のスピーチを書いているので、このトピックを使って同サークルの合宿で発表してみたところ、またまた大きな反響がありました。その時に同期からもらったメッセージには、地方女子のものもありました。

 英語サークルの集まりですから合宿にいた人たち全員がジェンダーギャップに関心があるわけがありません。それでもこうしたメッセージが自分に届くということで、改めてこの問題のリアルさを実感しました。

 最後に自分の活動の感想について1つ付け加えますと、基本的に、自分のこの活動を聞いて悪く言う人は見たことがないです。むしろ逆にこの問題に気づいて行動していることをすごいと言われたことが多い。これはつまり、日本社会における教育分野のジェンダーギャップ解消の取り組みは大いに需要があることを意味しているのだと思っています。

 以上で2つ目のお話を終わります。

「日本社会にある課題と、その解決策」

 最後に、私が考える日本社会の課題と、その解決へ向けた私見を述べていきたいと思います。

 こういうトピックになると「ジェンダーバイアスを是正しなければならない」とかが課題としてよく出てくると思いますが、そういうありきたりな話だと面白くないし、おそらくは私以外の人の方が詳しいと思うので、ここではちょっと違う側面からお話しようかと思います。

  まずはこちらの表(図2)を見ていただきたいのですが、これは2022年度の東大合格実績上位20校のリストです。これは現役の東大副学長の矢口祐人先生が執筆した「なぜ東大生の8割は男性なのか?」というネット記事から引用したものなのですが、この通り上位20校のうち半分が中高一貫の男子校という状況なのです。合格者人数に直すと4人に1人がこの10校の出身ということになります。私の出身である早稲田高校など、ここに入らない有力な男子校もありますから、実際にはこのような学生はもっといます。

 そこで私が東大の環境で感じたことから立てた仮説ですが、このような「中学高校と男子しかいない環境で過ごしてきた人たち」は、今私たちが扱っている問題に対して無頓着、もしくは存在すら知らないという人が多いのではないか、ということです。もちろんこうした全ての学生がこうだというわけではないですが、これらの学校では周りが東大を目指すことがかなり当たり前の環境であるので、そうでない地方の、さらには自分とは違う性別の人間に対する想像を働かせることが困難であるという点で、ある程度の整合性はあるのではないかと思います。

 東大の大きなジェンダーギャップを解消するためにはまずその主な構成員たる東大生がこの問題について自覚的である必要があるはずですが、彼らのマジョリティがこうした属性を持ち、この問題について無知であるというのは日本の男女共同参画を考えるにあたって大きな障壁となるでしょう。

 この状態を解消し、東大の男女比を改善するのに一番手っ取り早いのはこうした男子校を共学化することですが、ここでする話の解決策としては面白くないので別の解決策をメインクレームとしたいと思います。

 それは、こうした中高一貫校の総合学習の時間などを用いて、ダイバーシティ・インクルージョン教育を充実させることです。高校を卒業して価値観が固定化されてしまう前に、このような時間を設けることで日本に存在する構造差別について知識を得て、もっと考えてから東大に来てほしい、と私は考えています。少し話題は違いますが、一昨年(22年)の9月には灘中高で、女子大生と生理について考える「社会講義」というものが行われたことが、朝日新聞によって報じられています。これに類する機会がもっと多くの男子校で共有できるようになれば、日本の環境は少しでも変わるのではないかと思います。

 あるいは、大学に入った後に行われるダイバーシティ・インクルージョン教育を強化する必要もあるでしょう。現在も東大に入学してきた新入生が最初に視聴するべき動画として、東大のジェンダーギャップの話題も含めた「ダイバーシティ・インクルージョン動画」を見ることを教務課から求められるのですが、動画に対する小テストや課題などは一切課されず、事実上の任意視聴、サボろうと思えばサボれる状態になっています。そこで、この動画を視聴して小課題に答えることで単位がつくといったインセンティブを与えるか、この動画を視聴しないと大学用アカウントを運用できないなどの拘束力を与えるなどして、この問題に関する認識の共有の徹底が必要だと思います。

 以上で、3つ目のお話を終わります。


 長くなりましたが、最後までご清聴いただきありがとうございました。


出典

図1:瀬地山角「炎上CMでよみとくジェンダー論」光文社新書 2020 p233
図2:集英社オンライン「なぜ東大生の8割は男性なのか?「男女比の偏りが慢性的な差別的発言を生んでいる」という女性学生の危機意識(矢口祐人 著)
https://shueisha.online/articles/-/250106 2024/6/25アクセス

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