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ミラーリング・ドライブ

ハト恵(94年生まれ 宜野湾出身)

ドライブが好きで、結婚前は遠近問わずよく一人で出かけた。少し遠出して、観光を楽しんだあと、ラジオを聞きながらベッドタウンまで続く国道を走る。その町で生活をしている妄想をして遊ぶ。

イオン系スーパー、ニトリ、東京靴流通センター(いずれの駐車場も巨大)。ぼんやり光る巨大なホール(多分合唱コンクールを開催している)。一本入ると、急に舗装されていない細道(外灯ゼロ)。

……頭に浮かぶままにキーボードを叩いたが、そのイメージの半分くらいは、故郷である沖縄中部から思い起こしたものだ。わたしは中部のなかでも、那覇から車で20分ほどのベッドタウン・宜野湾市で生まれ育った。

地方都市のベットタウンは、どこも少しだけ似た雰囲気を持っている。旅先で面影ある情景に出会うと、否応なしに胸が躍る。おお、懐かしい。わたし、ここに住んでたかも。

そのなかに「その土地にしかない景色」を見つけるともっと胸が躍る。ああ、わたし今、旅をしている!


ある日のこと。「それにしたって、似すぎてる」という町に出会った。

福生である。

国道16号線を北に走っていると、右側に巨大な基地がある。左側には、ミリタリーグッズ店、アメカジ系古着屋、ビンテージ家具屋、そして、ブルーシール……あまりにも、沖縄中部に似ている。思わず車を路肩に停めてため息をつく。

福生は東京・多摩地域西部にあり、ベッドタウンとしての一面を持つ。極東の主要米軍基地・横田基地のある街としても有名だ。

そして、故郷・宜野湾は那覇のベッドタウン。市の面積約25%を占める、普天間基地を擁する。そして普天間基地から北へ、キャンプ瑞慶覧、キャンプ桑江、嘉手納飛行場……青春時代は、国道沿いをどこまでも続くフェンスと、その上を飛行する戦闘機の轟音とともにある。

ふと窓の外に広がる福生の街並みに目をやると、母校のスクールバスが停まっている。制服姿のわたしが降りてきて、携帯をパカパカさせながらフェンスの前を歩いていく。

そんな幻を見てしまうほどに、福生の一角は、生まれ育った町・沖縄中部全体にそっくりなのだった。

しかしよく見ると、フェンスの形がちょっと違う。基地のなかに生えている木は、背が高くて葉っぱが細い。基地の向かいの住宅を見ると、屋根が三角。貯水タンクがない。ここは沖縄中部じゃない。東京都福生市だ。

車を降りて、福生にしかない景色を探しに行きたい。わたしたちは少し似た環境で暮らしているけど、どこが同じでどこが違うのだろう。しかし車の返却時間が迫っていることに気づき、引き返すことにする。

海とか三線とか紅型とか、おばあとかサーターアンダギーとか、沖縄らしさを象徴するものはたくさんある。でもわたしはどうやら、一般的なベッドタウンの風景、それから基地と暮らしの共存する風景に強い郷愁を抱いているのかもしれない。

ギアをドライブに入れて、ハンドブレーキを降ろし、ウィンカーを出す。途切れない後続車を見送りながら、もう一度フェンスの方を見やる。
基地の上に広がる空はやたらとのびやかだ。地平線の向こうまで何も遮るものがないから。

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