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成瀬巳喜男監督「流れる」を鑑賞。超実力派の女優がズラリ競演。幸田露伴の娘が書いた小説の映画化だが、エンターテインメントとして軽快で面白い!女優たちが、ぶつかりあう傑作だ。

職業相談所から、芸者の置屋に、おとなしい中年女性の田中絹代が女中として派遣されてきた。

山田五十鈴「名前は、なんてぇんだい?」
田中絹代「梨の花と書いて、リカといいます」
高峰秀子「なんだか、異人さんみたいだねえ」
山田五十鈴「ええい、ややこしいから、お春でいいだろ」
田中絹代「はい。けっこうでございます」

ええのんか!そんなんで、ええのんか!名前を勝手に変えてええのんか?
刑務所では、名前は葬られ、全員、番号で呼ばれるが・・・なんだか、そういう奴隷制度的なものを感じました。

当時のポスター。

◆◇◆

オールスター女優の競演が 変に総花的にならず上手くいった
置き屋の主人つた奴(山田)を軸に 玄人と素人の対比、そこに出入りする人々を描いている。

「七人の侍」ではカッコよかった宮口精二が、ヤクザっぽい男を演じていてビックリ。


女達がぶつかる中で 男に捨てられ魂が抜けたような、だらしない米子(中北)の空気感が面白かった
(つた奴の妹とは思えない)



その矜持も男運の悪さも才覚のなさも 金策の邪魔になり家屋を手離すことになる つた奴の年増の色香と悲哀が美しい



また、その日暮らしで年下の男に捨てられた 通いの芸者染香(杉村)
彼女の所作が素晴らしい
この二人が その欠点を含め芸者らしく 魅力的だった。

ソース好きな杉村春子が滑稽で愉快。


着物の着付の場面(岡田/山田)は華やぐ
衣装考証は岩田専太郎

演出中の成瀬巳喜男監督。

◆◇◆

原作者の幸田文が、父親幸田露伴の死後、住み込みで女中として働いた芸者置き屋。
その体験から、華やかそうに見える花柳界と凋落する芸者置き屋の人々を、
暖かく見守る女中の春(田中絹代)の視点で描いている。



幸田文はその女中奉公で健康を損ないたった2ヶ月で仕事を終えた。
春の働きぶりを見ると、健康を損ねるのも納得である。
(経験上、骨惜しみせずに働く家政婦さんは、数ヶ月で倒れる。雑巾掛けを撫ぜるように、するベテランは、チカラを抜かねば続かぬ仕事とわきまえているのだ)



作者の分身である女中の春(田中絹代)は、とても美しく聡明。魅力的に見える。
この映画は芸者置き屋が主役の筈なのに、実質的主役は女中の田中絹代である。

あえて抑えた演技で、逆に輝いた田中絹代の名演に酔う。

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