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ひょっこりイヤホン

通勤中の大事なお供、イヤホンが壊れた。

行き帰りに違う世界へ連れて行ってくれるイヤホンは私の大切なもの。新しいものを買うために家電量販店へ急いだ。

今は有線タイプだけでなく、Bluetoothのワイヤレスタイプなど種類が豊富だな〜と眺めていたところ、「生まれてこのかた17年、老舗のイヤホン」とコピーのあるイヤホンが目に入った。見た目はいたって普通なのになんとなく惹かれてしまいサンプルを耳にかけた。

『ナミ、ナミ。聞こえるかい?』

「ん??」
誰かいるかと思い、周りを見渡すが誰もいない。

『ナミ。ナミ。』
どこかで聞いたことがあるような懐かしい声。

「え。もしかしておばあちゃん?」と心の中で思う私。
『ナミ、ようやく会えたね、久しぶり。』

おばあちゃんは、もう何年も前に亡くなっているはずなのに、なんで声が聞こえるの。

『ナミ、やっと見つけた。私が死ぬ間際、ナミに会えなかったから、ずっと後悔してたのよ。』
そうだった。おばあちゃんの病気はすぐ良くなるからと親に言われてお見舞いには連れて行ってもらえなかった。だから、亡くなってしまった時は本当に悲しくて。悲しくて。おばあちゃんも悲しかったのかな。

『長生きして、ナミともっと一緒に過ごしたかったけれど、ナミはナミのまま、ナミらしく生きるのよ。おばあちゃんはいつまでもナミのことを見守っているから。できっこないこともあきらめず、挑んでみなさい。きっと、うまくいくから。』

「おばあちゃん、おばあちゃん!」家電量販店にいることを忘れ、思わず叫んだ。しかし、それ以降おばあちゃんの声が聞こえることはなかった。

慌てて、大好きなおばあちゃんの声が聞こえたイヤホンと同じイヤホンを購入して耳にかけたが、未だにおばあちゃんの声が聞こえたことはない。

後から気づいたが、イヤホンからおばあちゃんの声が聞こえたあの日は、
おばあちゃんの命日だった。

会いたくてももう一生会えない、大好きなおばあちゃんの声がまた聞けることを信じて今日も私はイヤホンをつける。

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