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いじめとスクールカウンセラー 1

 この章ではいじめととスクールカウンセラー(SC)のあるべき姿について考えていきます。

大津いじめ事件とスクールカウンセラー

 そのきっかけとなるのはやはり大津のいじめ事件です。大津の事件ではSCの対応が大きな問題になりました。
 学校が自殺の主因についていじめではないという判断を下す際に、SCの見立てが影響を与えたことや、被害者の姉の面談の記録を学校の管理職が見れる状態であったことなどがSCの対応として問題になりました。これではSCは学校に近すぎるのではないかと。
 本を出した共同通信社や第三者委員会は、SCは学校とは一定の距離を置くべきであるというスタンスを示しています。この学校のSCが職員室に常駐していたことや、学校に対して守秘義務を守らなかったことも両者は非難していました。
 しかし、文科省や各県の教育委員会がいじめの対策としてSCに期待することは大きく違うようです。これらの機関や臨床心理士会などの心理の組織はSCにチーム学校の一員として学校と深く結びついて仕事をするように助言しています。それは大津の事件の後も変わりません。
 どうしてこのようなことが起きているのでしょうか?

スクールカウンセラーと学校の関係

 多くのスクールカウンセラーは大津の事件を受けての提言に対して疑問に思っているはずです。大津のスクールカウンセラーと学校の距離感は決して珍しいものではありません。
 守秘義務についても学校を含んだ一つの集団として守秘義務を守るという感覚でいるSCが多いと思われます。外部に秘密が漏れないように秘密を守るわけですが、それはどこからを内部とするかによって誰に話していいかが違ってくるわけです。
 学校現場の中では、相談の中で得た情報の全てを学校に伝えずにいるという姿勢では学校と一緒に問題を解決していくことは難しいでしょう。もちろん全てを伝えるというわけでもなく、相談内容によってはある部分を学校に伝えずにということもあります。そのへんはケースバイケースで、このへんをうまくできる人が優れたSCといえるのかもしれません。
 それともう一つ、第三者委員会や新聞社が誤解していることがあります。SCが職員室によくいては生徒が相談に気軽に来れないのではないかという意見です。そもそも学校は授業中に授業とは別の場所にいることが基本できません。保健室で休むにしても、相談室に相談に来るにしても、先生に許可を取らなければいけませんので、授業時間に気軽に相談に来るということはありえません。休み時間や放課後に相談に来ることはあるでしょうが、それは学校全体の時間からすると決して多い時間ではありません。
 現在のSCは相談室にずっといるようなことなく、職員室で先生方と情報交換をしたり、授業の様子を見に行ったりすることが推奨されています。

大津のスクールカウンセラーは何が問題だったのか

 では、大津のSCは何が問題だったのでしょうか。
 一つは、自殺の原因やいじめかどうかの判断についての見立てを学校に伝えたことです。
 自殺の原因が学校内のトラブルであったかどうかを学校が判断する理由はありません。それは司法が判断すればいいことです。いじめがあったかどうかも学校側が判断する必要はありません。どんな暴行があったかどうかの事実だけを伝えればいいだけのことです。そこから先は警察や司法が判断すれば済むはずのことです。
 「いじめ」の定義でも考えてみましょう。学校内でいじめと思われる事件があった場合、どうしてもそれは仲間内のふざけ合いでないか、大したことではないのではないかという方向に判断がいきがちです。そういった集団の空気が「いじめ」なのですから、それはクラスの生徒達だけでなく、学校の先生を含めた集団にまで広がっている可能性があります。この「いじめ」の感覚があれば、SCが学校に対して伝える助言も変わったのではないかと思います。 
 そういった「いじめ」の定義が頭になかったとしても、いじめが疑われる自殺があった時点で学校と遺族である保護者が対立関係になることは予想できます。この時点で、遺族の相談を受けるなら学校との距離を取る必要があったでしょう。

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