みんな忘れる

今日、とある立てこもり事件があったお店の前を通った。夜から営業するお店だからまだ開店前で、しんとしていて、静かだった。

その後、他の立てこもり事件も起きたし、電車で誰かが無差別殺人しようとしたとか、学校の前で受験生が刺されたとか、いろんなニュースがあって、みんなこのお店の事件のことは忘れているんだろう。

お店にとってはいいことだと思う。

全部のことを覚えていたらとてもやっていけない。世界中がトラウマまみれになってしまう。

忘れて、上書きして、学習して、いろんなことを脳の中で都合のよいように書き換えて、生きている。

あの犯人は、どうしているんだろう。

許せない、と思う犯罪はたくさんあるけど、やはり悪として生まれてくる赤ちゃんはいないのだから、どんな犯罪者にもそれなりの理由とか背景があって、犯罪者にならざるを得なかったんだろう。そう考えると悲しい。許せない、ということはたやすい。だけど、特に最近の犯罪はとても悲しいと思う。逮捕されたら3食食べられるとか、悲しすぎる。日本は豊かな国になったと言われていたけど、いまは格差が広がって、貧困率も高まっているし、コロナで「国はそれほど助けてくれない」というのが浮き彫りになった。「助けて」と言いにくい雰囲気も濃いことが最近とてもよくわかった。人に助けを求めたり、頼ることは迷惑をかけることである、という考えが根強い。

みんなが助け合って、みんな幸せな社会というのは理想すぎて現実味がない。だけど、悲しい犯罪や悲しい人がもっと少ない社会になるといい。まあ、わたしも今、まあまあ悲しい。でも怒りはないし、誰かを傷つけようというところまでは至らない。だから、犯罪に至る人の抱える闇の深さを思うとつらくなる。ああ、考えたらまた悲しくなってしまうね。どうして？って思うことが多すぎる。

せめて悲しいことを早く忘れられるといい。そのために芸術やエンターテインメントやいろいろな作り物がある。

そういう作り物に触れなくても、わたしたちはいずれ忘れる。毎日いろんなことが起こるから。地球が回っていて、なんでも動いているから。脳細胞が毎日死ぬから。そういうふうにできている。

忘れるということをうまく利用して生きていきたい。今日のことも、半分以上、明日には忘れているんだろう。