AI 泣かせの人になれ ⑤~⑦

帰国子女の調査とは、具体的には、彼らが共通して抱えている日常生活における不自由に感じること、ルールとか常識とかメンタルに関することとかをクリアに洗い出す調査だと、ヒロさんから聞いていた。
先ず、どういうタイプの生徒を集めようかなぁ、
“住んでいた地域”
“住み始めた年令”
“住んでいた期間”
“家庭内外で使っている言語”
プロファイル的な項目は問題ないと思うけど、帰国子女の解決したいことって何だろうか?
とそこへ、ヒロさんのけたたましい声。
「Uヘイ、Uヘイ、何、考えてるフリしてるの、アクション・リクアィアド(Action Required)」
「ヒロさん、ボクの頭の中まで見えないでしょ。今、脳の回路、光速で回ってますよ。ヒロさんの声とシンクロして熱を発しそうですけどね。」
「甘い、甘い。頭の中は見えなくても、仕草や表情から何でも分かっちゃうのよ、私みたいな勘100%の人間にはね。」
と機関銃のような反応。
「で、その答えが“考えてるフリ”っていうのは、いかがなものでしょう?」
「いかがもタコも、伊賀も甲賀もないのよ。あるのは私の頭脳だけ。」
と再度マシンガンのような反応。
「アクション・リクアィアドは略すと”AR”、ARといえばポケモンGOということは、UヘイGO!さあ、行って来なさい!」
「そのARはこのARと違うかと?うぅん、なんだっけ?”Action Required(先ず、行動在りき)”と”Augmented Reality(拡張現実)”だ。」
「そんな正解を喋ってる暇あったら、UヘイGO!行動あるのみ、脳みそは出汁を入れた後だからね。解決したいことをUヘイが考えてどうするの、それをヒアリングするのよ。GO!」
その通りっと納得してしまった私。

夕陽が鮮やかに空を染めるなか、Uヘイは、藤沢駅近くのタリーズでモリミーとアサミーに会った。
「早速だけど、2人のプロファイルを作りたいから、この用紙を埋めてもらえるかな。日本語で書いても、英語でもどっちでもいいよ。」
と英語で項目が記載された用紙を2人に渡した。
漢検準一級のモリミーは日本語で、日本語イマイチなアサミーは英語であっという間に書き終えた。
「それじゃ、これを基にインタビューさせて。勿論、個人情報に係るから、ノーコメントもOKだよ。」
「まぁ、普通の質問だと”日本に戻って来てから困ったことは?“だと思うけど、要は、ぶっちゃけ ”うっとうしいことって何?”」
「かんたん、かんたんっ。」
と喋りだしたのは、モリミーだった。
「思ったことをすぐ行動に移すと、絶対誰かにNG出される。」
「それ、モリミーの言い方が悪いか?顔が気に食わないか?じゃない?」
「はぁっ????? 何言いたいの、このおたんこなす。」
「えっ、団子と茄子の合体版?」
「お・れ・はぁ~、質問にマジに答えようとしてんの、くだらんインタラプトすんな。」
「モリミーさ、それは必ず誰かのOKを貰わないとやりたいことが出来ないってことかい?あるいは、出る杭は打たれるってことかい?」
と確認してみる。
「どっちも、ほぼほぼ合ってる感じだけど。要は何でもステップ・バイ・ステップなんだよね、プロセスが。」
「それって、モリミーが気を使って、マジにやろうとしてるからじゃない?私なんか、いつもイケイケGO!GO!よ。」
とアサミーがちゃちゃを入れた。
そういえば、うちのボスも思い立ったら行動が電光石火だなぁ、と思いつつ、今はモリミーの話しの聞き役になりきろうと
「モリミー、何か具体的な例はない?」
と聞いてみた。
「学校行事のパンフ作ろとした時、PCで昔のデータ使って、1時間でサクサク作ろうと教室の机でやり始めてたら、後ろからヌゥッとした気配を感じて振り向くと先生がいて
「森、それ何だ?」
と、聞かれたから、どこかの政治家と違って説明責任を果たすべく
「自分が昔作った写真データを使ってフォトショップでイベント用のポスターを作っているとことです。」
を言ったら、来るわ、来るわ、質問の嵐、校長役の櫻井翔かってくらい。

「おまえ一人で勝手に作って。誰かに許可もらったか?」
「このパンフの目的とか内容とか、おまえ、チャンとわかってるか?」
「フォトショップ、おまえ、本格的に使えるのか?」
「その昔のデータ、流用して著作権とか問題ないか確認したか?」
「そもそも、何でおまえがやってんだ?」
そこまで戻るかって、ムカつきまくるモリミー。
と、そこに突然の割り込み
「まぁ~、いいじゃん、モリミーが作ったものを見てみようよ。センスいいか?使えそうかさぁ?それから、それからね、三上せんせ~~ぇ。」
アサミーのウーハー重低音応援団長のような響き声と長い髪の似合う美形が半径1m以内に。女子に弱いというか女子と喋れない三上先生は、それまでの勢いがなくなり、言葉に詰まっている。
「森、一人でこっそり引きこもってドラフト版作ってこいや。」
なんという、軸のなさと思いながらも、よっしゃ~作るぞと、アサミーの方を見て、感謝の意思を示した。
「アサミー、さっきはありがとう。」
「じゃあ、トリュフチョコ5個ね。」
と2人きりになって、お礼を言った。
「ところで、モリミーのアイデアってやつを聞かせてよ。」
と、食べ物だけで終わらせず、ちゃんと聞くべきことは聞いて自分で判断する材料をインプットするところは、アサミーが海外で培ってきたスキルである。
「テケテンテン、でわぁ~、モリミーのプレゼン第一幕。まず、誰に向けたパンフか?ターゲットユーザやね。で、ここは、想定アバターを作ってみる。第二幕、興味をもってもらう。認知度の向上ってやつかな。ここは、楽しいイベントだというイメージを刷り込む。第三幕は、どうやって配るか?最も効果的な配布方法を決める、てな感じかな。」
「やばっ、モリミーって、もしかして賢い?」
「もしかして?もしかしなくてもでしょ。つぅ~か、今までどう思ってたの?」
「いいから、いいから、考えてるなってことは充分わかったから、私、のった。アグリーよ(agree)!」
よしっ、これで上手く行く方向はルーティングされたも同然だとモリミーは心の中で呟いた。


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