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出てくる日本人全員狂ってる

※人物、固有名詞に対しての敬称は略しています。
普段心の中で愛をこめて呼んでいる、そのままの呼び方をしたいので……。

何度も観たくなる、美しすぎる、特別な映画、
「戦場のメリークリスマス」の話です。

キャスト、音楽、演出、なにもかもが奇跡的に美しい映画。

「戦場のメリークリスマス」を初めて観たのは2年前で、そのときは、ふうん、こういう映画ね、有名なやつね、と思ったのだが、観終わった次の日あたりからじわじわと遅れて余韻がやってきて、数日のうちにもう一度観返してしまったことをおぼえている。

あまりにも有名で、かつ各方面から語りつくされているであろうこの作品に、あえて小難しいことを言えるような立場でもないので、わたし自身が感じたことを率直にまとめようと思う。

◎やっぱりたけし

たけしがね~~~やっぱり最高なんだよね。
ハラという人間の、粗暴で、ふんぞりかえってえらそうにしているけれど、どこか滑稽にすら見えるという人物像をうまく演じている。

暴力もふるうし、えらそうな態度ばかり取っているのだが、俘虜たちが明らかに、ハラにはどうせ分からないだろうという風に英語でなじっているのを、「なんだ、なんて言ったんだ」と繰り返すしかないときの、友達がみんなで集まって楽しそうにしているのに自分だけ仲間はずれにされている、みたいな不安げな表情は秀逸だ。

日本語を話せるローレンスだけに、「ローレンス!ローレンス!」と呼びまくるのも、内弁慶なこどもを見ているみたいですこし切ない。
ヒックスリーやセリアズなどは、あきらかにハラのことを下に見ているし。

でも腹の底から(ハラだけに)悪い奴か、なさけない奴かというとそうでもなくて、部下がハラキリ(ハラだけに…)したときも、家族が国からの恩恵が受けられるように、と殉職したように取り計らうなど機転を利かせられる人でもある。
そしてまた、無線ラジオを持ち込んだ真犯人がわかり、セリアズとローレンスを勝手に釈放した時も、自分が悪かったと上司であるヨノイに謝り、その上で自分の意見を正直に述べるような、まっすぐな人でもあるのだ。

だからローレンスもハラ軍曹のことを心の底から憎みきれない。
ハラという人間を一言でまとめると、セリアズの、
「ヘンな顔だ」
「だが瞳は美しい」
という台詞に集約されていると思う。
ハラはどこまでも純粋なのだ。

そしてそれがあのラストシーンへつながる。

わたしはそもそも坂本龍一のことがとても好きで、ひそかに若かりし頃の坂本龍一の画像を収集することを趣味としたりしているほどである(好きになったのはこの映画がきっかけでもあるのだが)。
そしてまた、デヴィッド・ボウイもはちゃめちゃにかっこいいし、なんという眼福な映画なことかと思うのだが、それでも一番印象に残るのは、いくつかのシーンのたけしなのだ。

◎出てくる日本人全員狂ってる

出てくる日本人全員狂ってる。
加熱していく集団、の熱に浮かされたような異常な精神状態にある日本人の姿が、本作では全編を通して物凄く自然なものとして描かれている。
そんな日本人たちを、俘虜たちは冷静な(半ば呆れたような?)目で見ている。

特にローレンスは終始、半分諦めたような態度でいて、ハラのことなんかはまるっきり我儘なこども、あるいは自分勝手な夫に対するように、あやしたり、なだめたりしているように見えた。

ローレンスは賢く、懐が深く、かつどうして日本人たちがこんな風になっているのかを冷静に分析していたのだろう。
その上で、逆上して何をしでかすかわからない日本人たちの俘虜という立場に置かれているうちは、とにかく「生き残る」ことを最優先にすることにしたのだと思う。
そのためには、日本人に媚を売っていると揶揄されるような態度を取ることもいとわなかったのだ。

そんなローレンスに対して、プライドを何より大事にし、日本人たちを馬鹿にしているヒックスリーは、日本人のことがさっぱり理解できない。
ヒックスリーからすれば、なにかと言えばすぐにハラキリしたがり、あまつさえ自分たちにそれを見せつけたがり、奇声を上げたり断食したりして精神統一をこころみ、神に近づこうとする日本人たちの姿は、異常な狂気集団のように見えたに違いない。

そんな異常な日本人たちを、ローレンスは哀れんでいたのだと思う。
「私は個々の日本人を憎みたくはない」
というのはそういうことだろう。
戦争がなければ。ここまで追い詰められていなければ。この人たちがこんな風になることはなかっただろうに。というのが言外に含まれていたように感じた。

ローレンス、懐が深すぎる。

◎セリアズとヨノイ、それぞれの罪悪感

ヨノイがなぜセリアズに惹かれたのかについては諸説あるけれど、わたしは2人がそれぞれ、戦争に救いを求めていたという共通点もその理由のひとつだと感じた。

ヨノイはローレンスに、自分が2.26事件に立ち会えなかったことを、自分は死におくれたのだと語った。
セリアズはローレンスに、弟を見捨てた罪悪感から逃れるために、戦争に飛びついたと語った。

2人とも、ローレンスに話したというだけで、最後まで互いのそんな境遇を知ることはなかった。
それでも、同志と言っても良いような境遇に置かれた者の持つオーラを、互いに感じ取ったのかもしれない。
だからヨノイは、おなじように戦争に命や心を捧げた者として、セリアズの髪を一房、形見として手に入れたかったのではないだろうか。

◎ラストシーンのハラの笑顔

ラストシーンのハラの台詞と笑顔については、色々な考察がなされている。

わたしは、あの最後の台詞は、決して「今度は俺を救ってくれ」というつもりのものではないと思っている。
ハラはまっすぐな人間である。
劇中ところどころに挟まれた、自分は死など怖くないというような言葉や、頭を丸めて、憑き物が落ちたようなさっぱりした顔をしている姿から、最後の最後に弱音を吐くようなハラではないと思うのだ。
どこまでも純粋で、自分の信じた道を進んできた。
最後の笑顔と、ローレンスへのメリークリスマスは、むしろ、ローレンスというサンタクロースが会いに来てくれたというプレゼントをよろこぶこどもの表情ではなかったか、と思う。

ここからはあらすじとは関係なく、わたしが言いたい放題するだけです。

◎種を蒔く

テーマである「Merry Christmas Mr.Lawrence」,そして「Father Christmas」が名曲なのは言わずもがなだが、
「Sowing The Seed 」、種を蒔く。
この曲がもう、かの有名なセリアズのキスシーンをさらに神秘的で壮大なものへ盛り上げるのに、一役買っているなんてものじゃなく何十倍にも増長させていて、凄い。
残念ながらわたしは音楽についての造詣が深くないので、その凄さを言葉でうまくあらわすことができないのだが、凄い。

やっぱり坂本龍一は天才。

(ヨノイの顔3連続で並んでるのじわじわくる…)

◎蒸し暑いけど、ひえびえする

ジャワ島、暑いんだろう。暑いし、きっと蒸し蒸ししているんだろう。
ジャワ島の場所もなにも知らず、本作を観てなんとなくそんな風に感じていたので、調べてみたら、やっぱり冬も最高気温は30度近くあり、雨季である11月から3月は湿度が高いとのことだった。

ただ、もちろん蒸し暑さも感じるのだけれど、夜のシーンなどからは、むしろひえびえとした冷気も感じるのだ。

色調のせいだろうか。
そんな風に感じるのはわたしだけだろうか?

肌が粟立つようなひんやりとした夜の空気が、この映画の神聖さを強調しているようで、だからこの映画の夜のシーンがわたしは好きだ。

【超!個人的に好きな場面】 

①ハラがローレンスとセリアズを釈放し、2人が部屋を出ようとするのを呼び止め、「メリークリスマス」と言ったのに対し、セリアズが英語で「狂ってる」て言うとこ。
「メリークリスマス」て言われて「狂ってる」て返すのかっこよすぎる。真似したい。

②セリアズが裁判にかけられ、ヨノイが「To be,or not to be, that is the question.」てちょっと噛み気味に言うとこ。
ヨノイ可愛い。

③ヨノイが「ゴウ、ギョー!!」「ゴウギョーフォアフォーティーエイトアワーーーズ」てたどたどしい英語で言うとこ。
ヨノイ可愛い。

【余談】

今回この映画について書こうと思ったのは、この度おこなわれた4K修復版の大規模ロードショーにちなんでのことだった。

GW中に観に行く予定だったのが、緊急事態宣言によって映画館が休館になるかもしれないと聞いて、予定を変更して4月のうちに観に行った。

戦メリが劇場で観られるなんて、夢みたいだ、と思った。
美しい映画は、映画館で観るとよろこびも感動もひとしおだから。

だが。
どきどきしながら座席についたそのときからなんとなく予感はしていたのだが、
前の人の、背が、高い……!

今まで映画館で映画を観てきた中での、はじめての経験だった。
映画館の座席の配置や傾斜の関係もあるのだろうが、本当に、画面の真ん中半分が、実質黒く塗りつぶされた状態なのである。

そんなこんなで、上映中ずっと、前の人の動きや画面の転換に合わせて、わたしも上へ下へ、左へ右へ、と頭を動かさなければならなかった。

そして、画面の真ん中半分が見えないというのはつまり、

・セリアズとヨノイのキスシーン
・セリアズが息を引き取るシーン

なにより、ラストシーン、

・ローレンスに、「メリークリスマス、ミスターローレンス」と言うハラの笑顔

が満足に見られなかったということだ。
特にラストのハラの大写しは、どれだけ体を動かしても、キラキラしたハラの目もとしか見えなかった。

不完全燃焼で帰ってきて、さっそくすぐに配信サービスでもう一度観なおしたのは言うまでもない話である。

でもやっぱり、今度はなにかにさえぎられることなく数々の名シーン、とりわけ#ハラの大写しの満面の笑顔を堪能したいので、どうしてもまた劇場で観たい。

再開した映画館もあるようなので、感染症対策はしっかり行ったうえで、観に行こうと思う。

観るたびに、何度も観たくなる不思議な映画だ。
セリアズがヨノイの中に種を蒔いたように、この映画がわたしの中に種を蒔いたのかもしれない。

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