見出し画像

夕焼けのあとは

夕焼けの中、一人家路を急ぐ。
明るく赤く、薄暗い。

放課後、小学校の運動場で、ハルとサッカーをした。
さっきまで遊んでいたハルとは、手前の曲がり角でさよならしてしまった。ここからは、一人だ。

舗装されてない田んぼ道を歩く。少しだけ近道なのだ。道端の草が風に揺れている。まだ暗くなるまでには、もう少し時間がある。ただ日差しは随分弱くなった。

何時間遊び続けただろう。今日も目いっぱい遊んでだ。

楽しかったな。でも、何が楽しかったのかな。したことは詳しく覚えていない。ただハルと一緒なだけで楽しいのだ。この1週間はサッカーばかりしている。その前は、ザリガニ釣りに夢中だった。その前は、木の上に段ボールの基地をつくったっけ。ハルと一緒だと何をしても楽しいのだ。

ただハルと別れて帰る田んぼ道は、とても寂しい。急に心細くなる。夕焼けの中、世界にぼくしかいないような気持ちになる。ハルと二人だったからか。
どこまで歩いて行っても、誰にも会えない。そんな気がする。田んぼの向こうに見える家に灯りがつき始める。知らない家族の笑い声が聞こえる。夕焼けの中に、一人ぼっち。

足を早める。
足を早める。
いつの間に駆け出している。

あの角を曲がれば、ぼくのうちだ。
外灯がついている。母さんの声も聞こえる。
やっと帰って来た。身体から力が抜ける。

でも、力を振り絞って声を出す。
「ただいまー」

「お帰りー。今日も楽しかった?」
「うん、最高だった」
「そう、よかったわね」

夕焼けはすっかり消えて、薄紫色の夜が近づいている。

この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,580件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?