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市内RPG 32 段ジョンB2のドラゴン

ぼくら、レベル10.勇者、戦士、魔法使い、僧侶の高校生パーティー。

子郡市のエオンショッピングセンターの段ボール回収箱から地下段ジョンに潜り込んで、探索している。

地下2階に続く階段を降りると、少しだけ温度も下がったようだ。

「地下2階か。まものも強くなるかな」
戦士ヤスが言った。

「レベル10になったから、ぼくは火と水、雷の強化呪文と全体呪文は覚えたよ」
魔法使いヒラは少し自慢げに言った。

「MPは大事にしないと、ポーションでしか回復できないわよ」
僧侶カナがたしなめた。

ケータイのマッピングアプリで確かめながら進む。

「奥にまた階段がありそうだぜ」
先頭のヤスが言った。

なるほどケータイの画面には階段のアイコンが見えている。ずっと先の方だが、、、。

そのときだ。

ぎゃおおおおおおおーーーーー。

空を切り裂くケモノの声がした。

正面に何かいる。マップのアイコンは赤く点滅していて何者かははっきりとわからない。

見えた。暗い闇の向こうに、天井近くに炎が立ち上るのが、、、。

「ドドドラゴンだーーーーー」
ヒラの声が震えている。

ズシン、ズシンと足音も響いている。

避けようがない。

正面がきらりと光った。

「これはやばい」
光ったように見えたのは、ドラゴンが吐き出した火の球だった。燃え盛る火の球がものすごい速さで近づいてくる。

「メチャツメタ!」
ヒラが水の強化呪文を唱えた。

火の球に水のかたまりがぶつかって、水蒸気が立ち上った。もうもうとする水蒸気の向こうに、ドラゴンの姿が浮かび上がった。

でかい。高さ3mの天井に届きそうな頭には2本の角が見える。頭は大きくはないが、長い首に支えられている。あごにひげをたくわえている。目は青く、瞳孔が縦に細く線のように立っている。そのドラゴンは、牙をむき出しにして威嚇している。4つの足にもするどい爪がはっきりと見える。天井がせまいので、窮屈そうに見える。

ヒラのメチャツメタが遅れていたら、ぼくらは黒焦げだったはずだ。

ドラゴンとの距離は、もう鼻の先だ。

ドラゴンが右前足を振り上げようとしたところを、ヤスがマもの星竿で上からたたきつけた。ドラゴンは一瞬ひるんだが、お構いなしに右前足を振り回した。攻撃したヤスがはじき返された。

「メチャビリー」
ヒラは雷の呪文を唱えた。雷撃がドラゴンに命中する。黄色い閃光がドラゴンの体を包んだ。ドラゴンの体が小刻みに震えている。効いてるみたいだ。

「今よ」
僧侶のカナも木魚ばちでドラゴンの胸をたたいた。

「おりゃー」
ぼくも勇者のカッターで切りつけた。うろこがなかなか堅い。傷つけることは難しそうだ。

ドラゴンは牙をむきだして噛みついてきた。ヤスが力の画板で防ぎきる。連続攻撃に合わせて防いではいるが、攻撃はできない。

ドラゴンがすっと息を吸い込んだ。

吐き出した息は火の球になっていた。危ない!

「ミナツメタ!」
ヒラは構えていたのだ、冷静に。

ヒラの呪文で、水の壁ができた。火の球は、ジュー〜ッと音を立てて消えた。

ぼくらは、ドラゴンの攻撃を防ぎながら、隙を見つけて切りかかる。

ドラゴンの火の球は、ヒラの水の呪文で無効化することができる。

しかし、ドラゴンの堅いうろこは傷をつけることも難しい。ドラゴンの牙や爪が襲いかかる。受け止めてはいるが、力負けしてしまう。

攻撃のたびに弾き飛ばされ、狭い通路の壁に叩きつけられた。

体力を削られている、、、。

「そうだわ。ネムリナー!」
カナが聞きなれない呪文を唱えた。

「攻撃しないで」
カナが呪文と同時に叫んだ。

呪文がドラゴンに届くと、ドラゴンは動きを静かに止めた。そして、目をゆっくりと閉じ、ふらふらと揺れたあと、床に崩れ落ちた。

ごおおおおおーーーー。

すさまじい寝息を立てている。生臭い。

「催眠呪文よ。長くはもたないわ」
カナが言った。

ぼくらは、ドラゴンの横をすり抜けた。

そのとき、寝息を立てているドラゴンの牙にきらりと光るものを見つけた。

ペンダントだ。金の飾りが付いたペンダントが牙にからみついている。

「これがいやだったのかしら」
カナが言った。

「取ってあげてよ」
カナがぼくに言うので、恐る恐るそれを引っ張った。飾りが引っかかっていたようで、チェーンの部分はスルスルと取ることができた。

金の飾り。○に一。いち?マイナス?とりあえず、ポケットに入れておこう。あとで、交番に持って行こうかな。

ぼくらは、足音を立てないようにドラゴンの後ろに回った。

「どうする?やっつける?」
ヒラが言った。

「無益な殺生はやめましょうよ」
カナが言うので、ドラゴンを退治するのはやめにすることにした。

ぼくもそれには賛成だった。勇者のカッターでは歯が立たなかったのだから。目覚めたら、きっと太刀打ちできない。

ドラゴンの寝息を後ろに聞きながら、ぼくらは奥に進んだ。しばらくは寝息が聞こえていたから、睡眠効果は抜群だったのだろう。あのドラゴンの大きさだとこの通路で振り返るのは難しそうだ。追ってはこないだろう。

寝息が止んで、身構えたが、巨大な足音が離れていくのがわかって、ほっとした。

しばらく進むと、また階段を見つけた。

「まだ下があるのかよ」
戦士ヤスがつぶやいた。

やれやれ。


前回まではこちら。

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