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【年齢のうた】松田聖子 その1●聖子18才、奥ゆかしい「Eighteen」

チバユウスケの逝去を悲しんでいます。

チバくん。だいぶ先になると思うけど、また会おう。

日曜はマネスキンを観てきました。非常にカッコ良かった。

この1年と4ヵ月でバンドが大きく進歩しているのを体感。若者たちに惚れ惚れできるのは楽しいことです。

その前日には、スピッツの曲ばかりのDJイベントに家族で行ったり(ギターロックバンドとしての彼らを感じる時間でもあった)、人生で初めて里芋を料理したりでした。いも炊き、わが家では予想を覆す人気を博した。

鳥になっちゃう夜!
いも炊き!


さて、今回から取り上げるのは、松田聖子です。

松田聖子は、僕の妹がファンで、島根の実家には今でもレコードがたくさんあります。
聖子の生歌を聴いたことは一度だけあって……けっこう前にユニバーサルミュージックのコンベンションにサプライズで登場した時でした。いやぁ、生の彼女には圧倒的なオーラがありましたね。って、盗撮気味のゴシップ記事の見出しみたいな表現ですみません。

で、まず取り上げる曲は「Eighteen」。

デビュー直後、まさに18才の「Eighteen」


日本のアイドル史上、トップクラスに君臨する松田聖子について触れていこうと思う。

家に妹のレコードがあったので、僕は聖子の初期の歌はそこそこ覚えている。いや、そんな環境じゃないにしても、80年代の日本で生きた人の多くは彼女の曲をしょっちゅう聴く機会があったはずだ。
いずれにしても1980年に「裸足の季節」でデビューして早々から、聖子の歌は耳に残るものだった。

そんな中、「Eighteen」は、3枚目のシングル「風は秋色」(1980年10月)との両A面曲としてリリースされている。

ただ、この頃の裏事情までは知らなかった。
調べたところ3作目のシングルは、当初は「Eighteen」がA面の候補だったのが、「風は秋色」とダブルプッシュされることに変更。そのため両A面という体になっていて、「Eighteen」も歌番組などでそれなりに聴いたものだが、こちらはそこまで強い印象が残っていない。今回のアイキャッチ画像であるジャケットの通り、タイトルも「風は秋色」のほうが前に来ている。

「Eighteen」はNHKの歌番組『レッツゴーヤング』の中で唄われる曲で、聖子もこの番組に出演し、唄っていた。背景としては、この曲が、同番組の司会だった平尾昌晃の作曲であることが関係していたようだ。
もともと平尾は、デビュー前の聖子が福岡で通ったボーカルスクールの主宰だった。聖子の歌のデモテープを聴いたCBS・ソニーのディレクターの若松宗雄は衝撃を受け、そこからデビューに導くために、平尾のレッスンを勧めたのだという。
つまり事前にお互いをよく知った同士が、その流れの中でデビュー後に番組で共演した、と言って差し支えないだろう。

当時の聖子を、平尾はこう語っている。

「レッスンではいろんなタイプの曲を歌わせてみた。特に印象深いのはコニー・フランシスの『ボーイハント』(61年)などのオールディーズだったね。ものまねではなく、自分の曲として消化できている。次々と課題曲を与えると、一度も拒否することなく、貪欲にこなしていました」

(石田伸也『1980年の松田聖子』 2000年 より/おそらく他書からの引用)

コニー・フランシスの「ボーイ・ハント」。元はロカビリー歌手として人気を得た平尾には、この曲への意識がかなりあったようだ。実際に「Eighteen」は、「ボーイ・ハント」のメロディとちょっと似ている。聖子のほうがもっと軽快なテンポになってはいるものの、方向性は近い。


「聖子ちゃん、そして田原俊彦がいてずば抜けていたよね。番組では外国のポップスをサンデーズに歌わせることが多かったけど、彼女が歌うとスタッフの誰もが『いいねえ』って声をそろえた」
(同上)

ただ、大御所の作曲家の平尾に対して申し訳ない意見ではあるが……僕個人は「Eighteen」は、レトロ成分がやや多すぎるように感じる。もちろん優れたポップソングではあるが、1980年当時としてもあまりにオールディーズの王道的な楽曲で、それだけに今ひとつインパクトが弱い。アレンジも曲調に合わせてあるので、すんなり聴こえすぎる感がある。

もう1曲の「風は秋色」が強めにプッシュされたのはタイアップの絡みもあったようだ。ただ、仮にメインを1曲とするのなら、フラットな視点で聴いても「風は秋色」にすべきだろうと僕も感じる。こちらのほうが音楽的にモダンで、しかもヒットした前作「青い珊瑚礁」の流れにあるかのようなストリングスが響くぶん、高まりが大きい。当時のCBS・ソニーの聖子チームの判断は間違ってなかったと思う。

やや脱線するが……1980年時点でのオールディーズへの意識とアプローチは、決して悪くなかったとも思う。というのも日本では、翌年にザ・ヴィーナスというバンドがブレイクを果たしたし。

その後、イギリスではトレイシー・ウルマンが大人気となった。数年のうちに、往年のポップスを雛型とするポップ・サウンドが若者に注目される傾向が訪れたのだ。

ただ、聖子の「Eighteen」のオールディーズ感は、あまりに昔の形態をそのまま展開しているように思う。甘く、ゆったりめで、おっとり。言うなれば、保守的なのだ。一方、後発になるが、ヴィーナスやトレイシーの楽曲はパンク以降の強烈なサウンドを伴っている。時代性に沿った仕上げが必要だったのでは、と思う次第だ。

もっとも「Eighteen」のおとなしい曲調でも、いや、それだからこそ、際立って響く聖子のヴォーカルは、かなり魅力的である。声質そのものの個性と、その鳴りの強さにインパクトがある。彼女は後年、日本レコード大賞の最優秀歌唱賞をとるのだが、デビュー年の時点でヴォーカルに相当な力量があったことがわかる。時間が経過した今だからこそ、よけいにこのことを感じる。

平尾昌晃とはデビュー以前から関わりがあったのに、彼が聖子に提供したのはこの「Eighteen」1曲のみで終わっている。レコード会社的にも、先生へのいちおうの義理は果たした、という部分があったのだろうか。

18才の心理を唄ったアイドルソングたち


この「Eighteen」についてさらに言えば、年齢ソングではあるものの、設定が18才であることが必然のものとして、さほど強くは感じられない。
ちょっと引っ込み思案で、恋する男子に対しても恥ずかしがってしまい、彼を遠くから見ているような女の子。曲調やサウンドもそうだが、描かれている女子像が奥ゆかしいのだ。当然そうした18才がいることはひとつもおかしくないが、あの松田聖子の歌だと思うと、かなり引き気味だと感じる。

この「Eighteen」、つまり当時の聖子の実年齢をタイトルにしたのも平尾昌晃の発案だったようだ。聖子のディレクターだった若松が回想している。

(前略)
平尾さんらしいオールディーズ・テイストのメロディに聖子が上手に乗っている。「18歳」というタイトルも平尾さんのアイデア。年齢をタイトルにすると、その時期を誰でも瞬時に思い出せるし、ファンの方の思い入れも強くなる。

(若松宗雄『松田聖子の誕生』 2022年 より)


この詞を書いた三浦徳子は、聖子のデビューから曲を手がけている作詞家。主人公の微細な心理を、時にドラマチックに、時にファンタジックに描く人というイメージを僕は持っているが、ここでの三浦は言葉を穏やかな曲調のほうに思いきり寄せている。おそらくメロディと仮の曲タイトルを受け取ってからの作詞だったのだろう。歌詞全般に、のちの聖子の成長や変化(強化)がウソのように感じるほど、主人公の主張が弱そうな気配がある。

もっともこの時期の聖子には、後年ほどのパーソナリティの強さを感じさせるところはまだそれほど見えていなかったはず。デビューして1年目で、曲調ともども、男子のファンが安心する歌にしようと考えられたのでは、と推察する。

なお、三浦徳子は今年の11月に亡くなっている。この80年代序盤からは沢田研二の諸作でも健筆をふるわれた、豊かな才能の人だった。ご冥福をお祈りする。

ところで聖子の「Eighteen」からすぐに連想したのが、この【年齢のうた】ですでに取り上げた南沙織と山口百恵である。70年代のCBS・ソニーのスタッフが作ったアイドルの実年齢ソングという流れがここでも引き継がれているのか?と思ったからだ。この両者とも、酒井政利がプロデュースしたシンガーであることも書いた。

南沙織、そして続く山口百恵の、実年齢を反映させた歌は、彼女たち以降のアイドルソングに大きな影響を与えたというのが僕の見立てである。しかもこの動きはアイドル以外のジャンルにも波及したのではないか、と考える。

ただ、結論を言えば、聖子はその系譜ではなかった。「Eighteen」という実年齢のタイトルは、前述のとおり、当時のスタッフではなく、平尾昌晃の発案。歌手の年齢によるリアル路線の一部を平尾がここで踏襲しただけで、聖子の年齢ソングは、ほぼこれきりとなった。
しかしそれでも「Eighteen」が実年齢を唄ったアイドルソングの中でも重要な1曲には間違いない。なにせ、あの聖子の歌なのだから。

それでは18才のアイドルソングは、ほかにどんな曲があるのか。以下、歴代の、18才の心理を唄ったアイドルポップを集めてみた。


ちなみにこの中の浜田朱里は聖子と同世代で、当初はライバルと目された人だった。

18才の心理を唄ったアイドルソングは、さすがに全部の曲には調査が追い付かないので、このへんでお許しいただきたい。甲斐智枝美「夢見る18歳」、森口博子「虹の日」のように、曲の存在はわかっていても、ストリーミングなどに未登録のものもある。ちなみに男性アイドルも探しているが、ちょっと見つからなかった。
しかし、それでも、思ったほど多くない。というのが正直な気持ちだ。

それと、松田聖子の「Eighteen」のような純真さは、どちらかと言えば近年のアイドルのほうにある気がする。昔の18才には、岩崎宏美のように来年は19、その次はもうハタチ……と、大人の階段の手前だという意識が見え隠れしている。

そして18才でデビューした聖子は、すぐに19才、そして二十才へとなっていった。次回も(数少ない)彼女の年齢ソングを紹介しようと思う。

<松田聖子 その2>へ続く

これも大阪からのおみやげ、
アルプススタンドの少女ハイジ
プリントクッキーよ、おーん



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