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【年齢のうた】南沙織 その1 ●私小説的なアイドルポップ「17才」

先日の母の日に、わが家にやって来たオレンジのカーネーションを含む花々です。あえて外で撮ってみた。鮮やかな色でいいね。

にしても、写真撮るの、もう少しうまくならないとだな。テクも必要だし、それに自分のスマホのカメラ機能がだいぶ衰えていてね。うーむ。

近頃は、ジャニーズに関する報道に対して強い関心を持っています。ジャニーズの方々とそれほど仕事をしてきてはいないけど、いくつかはあって……僕が話した取材対象のすべての方々は素直で誠実で、気持ちのいい現場ばかりでした。ジャニーズが生み出したいい音楽、いい歌もたくさんあります。
ただ、そういったことと今回の件は、また別に捉えるべきでしょう。現在の動きには、かつてハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの周りで起きていた様々なひどいことが引き金となり、そこから一気に広まった #MeToo 運動を思い起こします。

今の自分の考えとしては、音楽プロデューサーの松尾潔氏の下記の意見に近いです。ジャニーズとの関わりがありながら、あの動画会見の翌日にここまで踏み込んで語った松尾さんはすごいと思う(松尾さんとは、20年以上前になるけど、J-WAVEのスタジオでお会いした時に少しだけお話したことがあります)。

昨日17日のNHK『クローズアップ現代』では、松谷創一郎氏の言葉が響きました。とくにNHKを含めたマスコミに向けたメッセージが。

それから篠原章氏が書かれたこのテキストを読み、「なるほど、こうした角度からの捉え方もあるのか」と思いました。

この件については、エンタメ界のみならず、マスコミ全般のあり方、それに日本の企業、そして社会のあり方までも問われていると思います。そしてそこでは僕自身も無関係ではないと考えます。それはマスコミで仕事をしている人間のひとりというだけでなく、一般人としてもこのことをもっと問題視できなかったのか?という点でです。
いずれにしても、昭和の時代に見過ごされていたようなことが、時とともに価値観や人の生き方が変わっていっており、現代では通らなくなっているのでしょう。

もうひとつ、個人的な考えでは……何年か前に、SMAPの活動休止や分裂劇がありましたよね。あそここそ、ジャニーズが変革すべき時期だったとずっと思っていました。この時のジャニーズについては、獨協大学でのサエキけんぞうさんの講義の中でちょっとだけ話したことがあります(下記で挙げてる時です。書いてるのはその項目だけですが)。

先週、サエキけんぞうさんの講義「メディア社会とロック」のJ-POPの回に、今年もゲスト講師としてお招きいただきました! 学生との対話も含め、今回も非常に興味深いものになりました。 その概要を記しておきます。 ◆2017年11月21日(火)...

Posted by You Aoki on Monday, November 27, 2017

ともかくこの問題の向かう先は、社会的な倫理の問題まで含めながら、日本のエンタメシーンにおける転換点になる予感がしています。

では本題の【年齢のうた】。
今回は、南沙織の「17才」について書きます。

歌手の実年齢をタイトルに掲げた画期的なアイドルソング

アイドルポップスにそんなに詳しくない自分だが、この「17才」については触れないわけにはいかない。なにせ日本のポップ・ミュージック史上で、年齢をタイトルに入れた歌謡曲やポップスの中で、かなり早い時代に作られ、しかも大ヒットした曲だからだ。

年齢を唄った歌で、僕個人が生まれてから最も早く聴いたのは「圭子の夢は夜ひらく」であることは藤圭子の回で書いた。

「圭子の夢は夜ひらく」は、15、16、17歳という暗かった青春を唄っていた。歌詞は作詞家にしてプロデューサーの石坂まさを氏によるもので、その彼と、藤圭子自身の若き日を重ね合わせた歌だった。これが1966年(昭和41年)のヒットソング。

対して南沙織の「17才」は、明るく爽やかなアップテンポ。今にしてみれば、王道的なアイドルポップスだ。5年前の藤圭子とはかなり違う。

リリースは1971年6月。南沙織のデビュー曲であり、彼女の中でも最も知られている歌のひとつだろう。

ここで、この曲のスタッフを確かめておきたい。
プロデューサーは、当時CBS・ソニーの酒井政利。酒井氏はのちに山口百恵を手がけたことでも有名な人である。
もうひとりの重要人物は、作詞を担当した有馬三惠子(作曲は筒美京平)。唄い出しの歌詞は有馬氏の故郷・山口県防府市の海岸をイメージして書かれたという。南沙織は南国出身で、海の描写はぴったり。この印象のアヤも面白いところだ。

そしてタイトルの「17才」は、プロデューサーの酒井氏が決めたとのこと。これはもちろん、その時点での南沙織自身の年齢だ。ただし歌詞の中に17才という言葉はまったく出てこない。
こうした事実はよく知られていて、アイドル好きの人ならば常識になっているくらいかもしれない。

酒井氏はこの曲について、私小説的なものを意識したと各所で語っている。つまり唄い手である南沙織の個人性をのぞかせていると。
そこで1971年という時代性を思うと、その頃のフォーク~シンガー・ソングライターの潮流を重ねることができる。

酒井政利氏の著書
『神話を築いたスターの素顔
百恵、郷、りえたちと歩んだ三十五年』(1995年)より
同じく酒井氏の著書
『プロデューサー 音楽シーンを駆け抜けて』(2002年)より。
「17才」に関する記述は
上掲の『神話を~』と似たような内容

歌手が、個人的なこと、私的なことを唄うことがスタンダードになっていった時代。酒井氏はそれをアイドルの南沙織に、絶妙に重ねたのだ。そこで歌手自身のリアルがうかがえるような歌。このあたりの時代性の引き寄せっぷりは、まさしくヤリ手のプロデューサーの仕事という感じである。
もっともこの時代の日本(の音楽シーン)で「リアル」なんて言い方は誰もしていなかったと思う。そんな言葉は使われていなかったはずだ。

「17才」については、私小説的であることと、もうひとつは同世代、つまり彼女と近い年齢のリスナーを狙ったことがキーポイントだとされている(南沙織のCD『ゴールデン・Jポップ/ザ・ベスト』所収の堤昌司氏のライナーノーツを参考に)。

南沙織『ゴールデン・Jポップ/ザ・ベスト』のジャケット

こんなにある!「17才」ソングの数々

ところで「17才」の影響なのか何なのか、この時代以降、年齢をタイトルにした曲は数多くリリースされている。とくにアイドルというジャンルでは数えきれないほどある。

そこで、ここでは曲タイトルに「17才(17歳、セブンティーン)」が挙げられたものを並べていこうと思う。

とりあえず主だった歌謡曲、アイドルポップス、もしくはヒットチャートをにぎわせた曲(つまりシングルA面曲)で、80年代までのところで調査。ただし17才が歌詞に出てきている曲はまだあるだろうし、また、数多くの歌手が残したアルバム中の曲までは調べきれない。というわけで、16才や18才を唄った曲ももちろんあるだろうが、キリがないので、ここは17才オンリーでご勘弁願いたい。

最初に確認しておくと、南沙織の「17才」は1971年6月のリリース。まずはこれ以降を見ていく。できる限り、音源や映像も紹介する。


●キャロル「レディ・セブンティーン」(1973年3月)
4枚目のシングルで、作詞はジョニー大倉、作曲は矢沢永吉。キャロルの音源はサブスクにないので、永ちゃんのセルフカバーで。

●あいざき進也「気になる17才」(1974年1月)
彼のデビュー曲。女の子みたいな声の響きにビックリする。

●シェリー「17才の素顔」(1975年4月)

●桜田淳子「十七の夏」(1975年6月)
この人は『16才の感情』や『20才になれば』といったタイトルのアルバムを出している。

●岩崎宏美「センチメンタル」(1975年10月)
歌詞に17才が登場。

●河合奈保子「17才」(1981年3月)
大人でも子供でもない、という最初の部分の歌詞は、この年頃の大事なところではと。

●シブがき隊「ZIG ZAG セブンティーン」(1982年10月)
3枚目のシングル。ちなみにデビュー曲は「NAI・NAIシックスティーン」だった。

歌謡界の主だった曲を見てみるとだいたいこんなところだが、ここからは南沙織以前を見ていきたい。つまり1971年より前の「17才」ソングだ。

●ザ・ピーナッツ「17歳よさようなら」(1961年3月)
洋楽曲の日本語カバー。この双子の年齢ソングとしては、前年にもカバー曲で「悲しき16才」をヒットさせているし、1961年8月には「あれは十五の夏まつり」という曲もある。ただ、いずれも当時の本人たちの年齢とは異なる。

●西郷輝彦「十七才のこの胸に」(1964年8月)
これは実年齢ソングだが、それ以前に本人主演の映画主題歌。1964年11月公開の東映による青春映画で、歌詞の世界もフィクションである。


●高田美和「十七才は一度だけ」(1964年12月)
こちらも同名映画の主題歌で、この人気スターにとっての歌手デビュー曲。西郷輝彦同様、当時の彼女の実年齢である17才の役柄を演じ、歌を唄っている。

●オックス「ダンシング・セブンティーン オックス」(1968年9月)
失神で有名なGSバンド。橋本淳の作詞、筒美京平の作曲で、2枚目のシングル。なんと発売当時、ヴォーカルの野口ヒデトは17歳。作詞は橋本淳である。


で、ここでひとつ、特例を。

●「潮騒のメモリー」(2013年)
同年にリリースされたこの歌は、歌詞に17才が出てくる。ドラマ『あまちゃん』の劇中歌である。

これは小泉今日子(天野春子役)による歌唱。

こちらは薬師丸ひろ子(鈴鹿ひろ美役)の歌唱のライブ版。

しかしこの歌はやはり潮騒のメモリーズの能年玲奈(当時/天野アキ役)と橋本愛(足立ユイ役)で聴きたいところ。先週、たまたまこの年の紅白を見直してて、思い出してた。

ちなみに「潮騒のメモリー」という曲名は、南沙織のヒット曲「潮騒のメロディ」を意識しているに違いない。


以上、歌詞に17才が出てくる曲もちょっと混ぜつつだったが、歌謡曲メインで際立つのはこういった曲たちだ。ほかの「17才」ソングで、シングルのA面曲以外、さらにアイドル・歌謡曲以外まで含めると、浜田省吾の「あばずれセブンティーン」(1980年)、紅麗威甦「翔んでるセブンティーン」(1982年)、ここですでに紹介した尾崎豊「十七歳の地図」(1983年)、ビートたけしwithたけし軍団COUNT DOWN「BOY~If I’m 17」(1988年)などがある。

せっかく調べたので、この後の時代には……竹内まりや「心はいつでも17才(seventeen)」(2001年)、銀杏BOYZ「十七歳(…Cutie girls don't love me and punk.)」(2005年)、トミタ栞「17歳の歌」(2015年)、そして今年、YOASOBI「セブンティーン」(2023年)などがある。

というわけで、南沙織の「17才」。1971年にこの歌が大ヒットしたことは、曲タイトル、あるいは曲の主題に年齢を意識した楽曲というスタイルにおいて、それなりの影響があったのではないか、と推察できる。とくに歌手自身のリアル感を歌にほど良く盛り込んだ、という点で(それ以前にオックスのような曲もあったので、南沙織が決定打だと断定できるほどではないが)。


いずれにしても、大人でも子供でもない17才(出典は先ほどの河合奈保子)は、まさに青春時代。歌で表現したくなる感情がたくさんある年頃、というところだろうか。

(南沙織 その2 に続く)

インスタントラーメンは
子供の頃から出前一丁が一番好き

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