【年齢のうた】優河●家族に向けたリアルソング「28」
連休明けはいかがお過ごしでしょうか。何かと疲れますよね。わたくしも頑張っております。髪を切りに行ったり(←べつに頑張ることではない)。
昨日は、えんぷていというバンドを観てきました。期待株。
バンド名にははっぴいえんどとゆらゆら帝国の『空洞です』からの影響があるらしく、ライヴで見た感じだとレディオヘッドやフィッシュマンズの要素も感じました。まだ、まだ何かありそう。名古屋で結成されたバンドです。
名古屋は僕の第2の故郷です。カミさんの地元。
と、第2の故郷とか言うと、SUGIZOのようになってしまうな。
実はそのSUGIZOに僕がインタビューした雑誌が発売されています。
彼に、俳優デヴィッド・ボウイについて語ってもらいました。ぜひ!
さて、今回はシンガーソングライターの優河について書きます。
透明で悠然としたその歌声
優河は「ゆうが」と読む。女性のシンガーソングライターである。
僕が彼女のことを知ったのは、ずいぶん前のこと。1stアルバムを出した頃なので、翻ってみたら2015年だった。
この年の『Tabiji』というアルバムである(デビューとは言え、実際にはこれ以前の作品もあるようだ)。
最初に優河の音楽を聴いた時に、真っ先に感じたのは、歌声の存在感だった。
いや、存在感という表現は似つかわしくない。もっと自然で、透明で、そして悠然としていて、どことなく尊さを感じさせてくれる響き。それが素晴らしいと思った。
何しろ優河という名前からして、河……悠大な流れの河のようだな、と連想したほどだった。
ただ、それからずっと自分は優河の歌と関わることはないままだった。
やがて何かのタイミングで、彼女は著名な人の子だということを知った。
父親はロックシンガーであり、俳優でもある、石橋凌。ロックバンドARBのヴォーカリストとしても知られているだろう。現在はこのバンドではなく、ソロでの活動になっているが。
僕は、こちらはもっと長い間、石橋凌との接点がなかったが(そりゃそうだ……彼のことを一方的に知ってもう45年ぐらいになる)、今年の春にインタビュー取材で初めてお会いして、話をすることができた。
取材の最初に、「『さらば相棒』が、僕が初めて映画館で観た成人映画でした」と伝えたら、笑いながら「何歳の時ですか?」と言ってくださって、「18の時ですね」なんて会話をさせてもらった。
インタビューでは、何を話しても、実直で、まっすぐで、あのARBの凌さんのイメージそのままだった。松田優作の話もあって、充実した時間だった。
そして優河の母親は、俳優の原田美枝子。この方もまた、僕が映画を観て、たくさん親しんだ方だった。『大地の子守唄』とか、『火宅の人』とか。
さらに優河の妹も俳優である。石橋静河だ。
https://www.asahi.com/and/article/20190705/400688186/
そんな家族を持つ優河。アーティストとしては、先ほど書いたように、とにかく歌声が素晴らしい。
ただ、彼女の歌の響きは、本当に装飾が似合わなくて、派手な演奏や、大音量のサウンドで聴くようなものではない。おそらく本人も、パーソナルで、内省的でもあって、静かに、でも確かに聴かせるような音楽を指向していると思う。そもそもミディアムテンポ、そしてバラード系のスローな曲が多い。
それだけに優河はそこまでメジャーな活動をしているわけではなく、自分なりのペースで地道に作品を出し、ライヴを重ねている人である。
そして芸能一家のような家族でありながら、基本的にはそれと関係のないところで動いているので、その手の話題もほとんどない(かと言って、隠しているわけでもないようだが)。
そんな彼女の音楽が、数年前に、注目を集めたことがあった。
2022年にリリースした「灯火」という楽曲である。この歌がテレビドラマ『妻、小学生になる。』の主題歌に起用されたのだ。
僕はこのドラマを観てはいなかったが、話題を集めたことは知っている。コロナ流行の最中だったこともあり、どのアーティストもそこまで活発な活動を行えていない時期だった。そんな中で優河は「灯火」のスマッシュヒットで脚光を浴びたのだ。
そうした後、僕は去年、初めて優河の歌を生で聴く機会があった。10月のことだ。
彼女の歌は、本当にそのまま……素直で、何のよけいなものが何もなかった。純粋性が形になったかのような世界だった。
バッキングの魔法バンドも秀逸だった。優河はデビューの頃から、森が生きているの元メンバーたちと交流があるようで、そうした良質なミュージシャンたちが支えているのは頼もしい。
優河の音楽は、今ではインディ・ロックというくくりになるであろうが、デコレーションのないサウンドと親和性が高い。その中でまっすぐ、素直に立っている。そんな印象だ。
その純粋さこそが魅力の歌であり、音楽である。
28歳の最後の夜に書いた「28」
そんな優河の歌に、年齢についての歌があったことに気付いた。
今のところ最新のアルバムで、先ほどの「灯火」も収録している『言葉のない夜に』。この作品の最後の曲は、「28」という。
以下が、この曲についての本人へのインタビュー。
28歳の最後の夜に書いた曲で、ちょうどその次の日から合宿だったので、それまでに何か作らなきゃと思って書きました。
──アルバムのラストに置いたのは何か理由があるんですか?
この曲は家族に向けて書いた曲なんです。誰もが夜明けを待ってるけど、その中で何を思って、何を蓄えて、何を大事にするかが、夜が明けたあとでとても大事なことだと思ったんですね。だから、まだ夜が明けてないとき、一見暗く見えていても、腐らずに自分というものを大事にしたいし、大事にしてほしいなっていうことを近しい人に向けて書いた曲ですね。
──ただ夜明けを待つのではなく、その先のために今を大事に生きることが重要だと。
そうですね。いつお日様が出てくるかわからないときは、「自分なんか」と思いがちですけど、絶対に夜は明けると信じることが大事だなって。それぞれの夜明けはそれぞれのタイミングで来るから、何かを一概に言うことは難しいけど、でもやっぱり夜明けを待っている間、そこで何を思うかが、夜が明けたあとに何をするかにつながっていくと思うんです。
たしかに「28」は夜明け前の心境について綴られている。何かを思い、何かを待っている気持ちが唄われている。
これが家族についての歌ということは、そこで何かしらの出来事があったのだろう。それもきっと、あまり良くないことが。しかし、それを歌で過剰に言い尽くすようなことも、インタビューで詳述することも、されていない。
28歳の最後の夜に書いた曲であるという事実は明かされているが、そのことが楽曲自体に大きな影を落としてはいない。知らないで聴けば、とてもいい曲には違いないとしても、なぜ「28」というタイトルなのかはなかなかわからないだろう。
そこで説明過多にしない、そっとしておくのが、このアーティストらしい気がする。
そのぐらい優河の歌には多くのスキ間が、余地があり、解釈の幅がある。その分、装飾も、派手さもない。ただただ、この人の内面の何かが、素直に、率直に横たわっている。
そうしてみると、歌のタイトルが「28」であるのは、彼女にとってリアルな出来事や心情が書かれている事実こそが大事、ということだ。
本当に、なんという潔さ。なんというシンプルさなのだろう、と思う。
また、アルバム『言葉のない夜に』には「fifteen」という曲もある。これも15才の時の気持ちを唄ったのか、気になるところではある。
優河の音楽は、もちろん作品ごとに進化していると思うし、彼女自身がアーティストとして成長し、変化していってるところもあるだろう(活動をつぶさに追っているわけではないので、このぐらいの言い方にとどめておく)。
その真ん中にある、透き通った歌の無垢さ、純粋さを、いつまでも失わないでいてほしいと思う。
優河さん。これからも、どうかいい歌を唄っていってください。
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