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家庭料理のアイデンティティ〜土井善晴先生講演より

家庭料理が気になる今日この頃です。胃弱体質に成り下がっているせいもあって、身体のことを考えるとやっぱり家での食事が大事だな、と。

先日、料理研究家・土井善晴先生の講演会に参加しました。象印わが家の自慢料理コンテスト」記念講演 「これからの家庭料理の方法」です。お料理コンテスト自体は遠い世界なのですが、以前から友人に、「土井善晴先生の一汁一菜の提案」を勧められていたのもあり、良い機会でした。

主催:象印マホービン、協賛:NHK出版、企画協力:NHK文化センター
という最強の布陣のなせる技で、参加費500円。月曜の朝から集まると良いことがあることを知りました。

これからの家庭料理

さて、土井善晴先生は言わずと知れた料理研究家。テレビでもお馴染み、レシピ本も数多く、料理を教えるイメージがありながら、日本の伝統文化を現代に生かす術を提案する活動なども、多彩でいらっしゃいます。

土井先生の語る、家庭料理というシステムは、生物学的、合理的な思想に基づいていて、すーっと入ってくる講義内容こそが、消化の良いお料理みたいでした。

以下拾いきれないポイントですが、日々の料理で意識できていなかったことばかり。このいくつかでも意識できれば、料理や食が劇的に変わっていくように思えました。

料理は人間らしい行為

人間が二足歩行に進化したのは何のためかといえば、食物をかかえて家族の元へ走るため、というところからガッテン。さらに、料理をすることで消化を良くすると、脳や身体のエネルギーを別のことに使えて効率的であるために、人間は料理することでどんどん進化したといえるのです。ガッテンガッテン。

消化の悪いものを食べていると、エネルギーを腸で使ってしまうため脳が働かなくなるというのは、現代の食生活でもそうです。神経細胞は腸に集中しているそうです。頭や身体を効率良く使いたければ、消化にこだわるべし。

作る人と食べる人の関係

家庭料理がもたらす、食事の意味を考えます。
食事とは、お料理して、食べること」です。

★食べるという受け取り
・・・日常の喜び、おいしい・うれしい、栄養摂取、成長・健康
★作るという与え
・・・無限の経験、イマジネーション、気づき・ひらめき、表現

作る人と食べる人の需給バランスから、その関係性までみえてきます。「作る」ことがいかに豊かであるか、ということ。「食べる」際にも改めて意識したいことですよね。

また、料理は子どもに「居場所」を作ることであるといいます。おいしいもの、危険なものを注意深く観察する経験から、自分の基準を持つことができたり、安心安全を学び、自信や勇気を生み、与えることで責任や思いやりや優しさをも育むのです。

料理は、台頭するAIでは代替え出来ないと。なぜなら、AIには身体がないから。人の気持ちを慮り、関係性の中で協力し合うということができないから。これからの家庭料理は、AIにできないことをやっていくべきなのですね。「料理はこころをつかうこと」、名言いただきました。

(料理して)食べることは、生きること

おいしく茹でようと思わなければ、おいしく茹でられない
目で見て触って、五感を使って、気候条件によって、素材のコンディションにあわせ、茹で加減は変わるのです。レシピとタイマーに頼る料理法を顧みつつ、「心は万能センサーなんだから、使わな損!」と、ありがたい教えです。

食べること自体は、生命維持のための脳的な行為である一方、料理して食べることは、身体的な行為です。素材に触れ、手を動かし、五感をフル活用します。触覚的 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、、、特に日本人は触覚の民で、「風味」を感じることができるといいます。

日本人ならではの風味感覚は、和食の奥深さともいえそうです。人間は自然の一部と考えて、季節や時間に関わっていくことも大事。その上で自ら気づき、気づいたことで身に付く経験がすべて、講義より実践ですね。

食事の「形」の段階的変化

「一汁一菜でよいという提案」のご著書にあるように、日本人にありがちな、料理に対する「こうでなくてはいけない」という自縄自縛は、早々に捨てて良いという提案もいただきます。

第一 一汁一菜(しっかり生きるため、健康)
第二 一汁三菜(+おかず、日常の楽しみ)
第三 ご馳走(おもてなし、パーティー)

一汁一菜を楽しむための、ご飯の炊き方のコツや、出汁の考え方や、ちょっとしたポイントも教えてくださいました。

家庭料理のアイデンティティ

最後に、これまた大事な示唆がありました。
家庭料理と食の思い出、経験は、まさに自分の身体を作ってくれたものであり、自分を説明するものになります。それは自身のアイデンティティとして、互いに共感し、理解を深め、信頼を築くもとにもなっていくのです。

たしかに、自分のアイデンティを家庭料理の経験、食の原体験から表現できることってけっこうありますね。日々の料理で忘れがちですが、子どもにとっての家庭料理を提供する際にも、肝に命じたいことです。

1時間半の講義でしたが、とても短く感じるものでした。参加者は95%女性主婦層と見受けられ、土井先生人気を肌で感じることもできました。


実は、2月からNサロンで参加した、スープ作家・有賀薫さんのゼミ「家庭料理の新デザイン」でアプローチは違えど、家庭料理に向き合っていました。

「なぜ料理をするのか」を考えるゼミ。ここでは家庭料理幻想を越えて、自分のスタイルを見つけていくことの意義を考えました。

「どう料理するか」ではなく「どう食べるか=どうありたいか」をまず考え、第2回では自分の食を語り、人の話に傾聴することで思考が深まりました。第3回のスープ実習では、素材選びと調理による汁もの(スープ)の威力を痛感していたのでした。

合理的で美味しいスープや味噌汁、取り入れない手はありません。そして「家庭料理」は今後もキーワードであり続けるでしょう。

旬の食材カレンダー

おまけに、本棚に眠っていたこの本、娘が気に入ってよく読んでいます。マンガ風なのがいいみたい。

ちょうど昨日も読んでいたので、すかさず「今の旬はなに?  」と聞いたら、「夏野菜」と返ってきました。わりと広い、ざっくりだけれども、旬のものは美味しいという鉄則を盾に、娘に野菜を摂取してもらえるチャンスです。テーマを設定してもらった方が取り組みやすいというものです。

毎年この季節は、とうもろこしご飯がお気に入り。おすすめです。



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