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ウミヘビがDA PUMP踊ります

僕は平成に育てられた。
僕らの時代には円周率が3になったり教科書が薄くなったりした。
訳も分からず授業を受けてきただけで馬鹿な大人達から色々言われたものだ。

変わったことのひとつ、授業にダンスが取り入れられた。
創作ダンス・・・。

たじろぐ。そんなものやったことない。
いつも踊り狂ってるダンスやってる子らだけうずうずしている。

ピンクのジャージを着た先生が言う。
「チームを組んで創作ダンスそします。チームは自由に組んで良し。最後の授業で発表。以上、散れ!!」


僕(チーム選びミスったら死ぬやつだこれ)



結局僕はクラスの中でも元気メンバーに入ることができた。
こう言う時の柔軟性こそクラスカーストの外にいる者の特権と言って良い。
最悪おふざけに全振りすればいいやくらいに思っていた。
男子8人組くらいだった。

曲決め会議の結果、「フリを考えるのが面倒だからDA PUMPの「SUMMER RIDER」を完コピしよう」ということになった。
すでに創作ではない。


しかも相手はダンスのプロフェッショナル集団だ。
対するは教育実習生に鼻の下を伸ばす中学生である。
無理がある。無理がありすぎる。
東大生とウミヘビがセンター試験で勝負するようなものだ。

しかし当時のウミヘビ達はなぜか「できる」と思っていた。
本気で思っていた。怖すぎる。これこそ若さ。これこそ青春!
この気概こそ作品と言っていい。
あと当時のDA PUMPは今ほど売れていなかった。先見の明と言っていい。


粗い画像のYouTubeに目をくっつけ練習に明け暮れた。
「中途半端に踊るのが1番カッコ悪い」とわかっていたため、みんなめちゃ本気だった。
放課後も学校そばの公園で練習するほどだった。



本番も近くなってきたある日のことだった。
もう通し練習を行えるほどフリを覚えていた。
1回踊り終わった時、メンバーの1人が申し訳なさそうに口を開いた。


「よーちゃんさ、みんなと同じ動きしてるんだけど、なんか一人だけ違うんだよね」
「あー確かに、全部一緒の動きなんだけど1人だけ違うことしてるみたい笑」
「別の世界にいるようだ」


僕「!??!?!?!??」


衝撃だった。
意味がわからなかった。同じ動きをしているのに、違う・・・?
さらに友人が今までの時間「こいつだけなんか違う」と思っていたことも合わせて衝撃だった。


今だからわかるが、体の運びなんだと思う。
所作、慣れてなさ、としか言えないようなことだが、そういうことだったのだと思う。
普段から体より内臓を使うような部活をしていた僕は自分の体を上手に使えていなかった。

学歴や体格に関係無く「あの人なんかすごい」とか「あいつは一味違う」というオーラのように感じる感覚は、所作や、それをキャッチする無意識下の感覚によってできていると思う。
体の運び、それはほんの1秒にも満たない、1cmにも満たないような、小さな小さなズレなんだと思う。
あとは目つき、顔の筋肉の動き、匂い、体の揺らぎ、言葉を発するタイミング、トーン小さなズレが、その人を創ってゆく。


それを僕たちは無意識に感じるものの、言い表す言葉を持たないから「なんかすごい」「オーラがある」と言っているのだと思う。



結局僕だけ別世界にいるまま本番を迎えてしまった。
しかし本番は衣装のバンダナが落ちたせいでリーダーが足を大きく振り上げてコケたおかげで僕が別世界にいることはごく数人にしかバレなかった。


目に涙を浮かべるリーダーの背を叩き、その日の放課後8人だけの発表会が取り開かれた。
観客はバッタとカエルくらいしかいなかったが、美しい時間だった。


どうも。 サッと読んでクスッと笑えるようなブログを目指して書いています。