夢と陰謀と青臭さは湖の底に
『アンダー・ザ・シルバーレイク』という映画を見た。
劇場公開時から気になっていたが、ずっと見逃しており、やっと見られたのだ。
まさかこんなにヒッチコックを感じさせる映画が見られるとは!
ヒッチコックミーツ『マルホランド・ドライブ』だった。
物語がすすむにつれて劇伴がどんどんヒッチコックっぽくなっていくだけで陶然としてしまう。
本作は非常にクセが強く、好みが別れる映画だと思う。
↑の予告を見て、ご興味がある方にはぜひ見ていただきたい。
本編は予告の何百倍もややこしくて、面倒臭いのだ(それがまた最高)。
あの死体が上手と下手に勢いよくサーッとはけていくシーンのスピード感が早すぎて怖さを忘れて笑ってしまった。何なの、あの早さ。
赤と青を対照的なモチーフとして衣服や小道具に常に配置するゴダールオマージュ、カートコバーンからのプレイボーイの表紙(水中で裸の女性)、プール、トイレ、風呂、スーパーマリオ、湖と執拗に登場する「水」、『裏窓』や『サイコ』、アボットとコステロの『ジキル博士とハイド氏』などのポスター、テレビ放映の古典映画、ポップソングのピアノメドレー……イースターエッグにまみれているがそのほとんどに大きな意味はない。
サムが影響を受けてきた全てが走馬灯のように挟み込まれているのだ。
だけどそのカルチャーはサムの全てではない。彼の一面でしかないのだ。
サムがサラを探して入るパーティー会場での一言目は「煉獄へようこそ」だった。
煉獄は天国と地獄の間の、魂がさまよう場所だ。
サムのさまよえる「ティーンスピリット」をいかに昇華させるか、それが物語の主題だ。
カルト映画臭を漂わせているけど、実はものすごく純粋な、サムという青年のきわめて内省的な成長譚なのだ。
うまくいかないどん詰まりの人生、いっそこの不運を自分ではなく巨大な組織のせいにしたいと考えてしまう。物語を組み立て続けるサムは、次第に日常から物語を作り始めてしまう。
サムは本当に迷い込んでいるのか。本当は出口の目の前にずっといるけど、目を背けているのではないか。
すべてが終わってから道を歩くサム。その横を通り過ぎる数台の車からカーラジオが漏れ聞こえる。
もしかしたら『ラ・ラ・ランド』で全部上手くいかなかった人の映画なんじゃないか、と思えてきた。
あの時、ハリウッドに夢を抱いて車の上で意気揚々と踊っていたはずなのに、気付いたらスカンクにひっかけられて裸でおめおめと逃げる日々を送っている……。勝手にそんな想像を膨らませるとたまらなく愛おしくなる。
まさに青臭い映画なのだ。
この監督さんの『アメリカンスリープオーバー』も大好きだ。
新作が出たら絶対見よう。
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