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書評、映画批評

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金、土、日更新予定。主に新刊のスポーツ関連書籍、新作のスポーツドキュメンタリーを取り上げたいと思います。また、「忘れられた傑作たち」として、近年に発刊された傑作も取り上げてます。…
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#スポーツ

書評 『審判はつらいよ』、鵜飼克郎著、小学館新書、2024年

本作は、様々なスポーツの「審判」へのインタビュー集である。取り上げられるのは、サッカー、野球、柔道、ボクシンング、飛び込み、ゴルフ、相撲の「審判」である。それぞれの呼び名が違うが、ここでは本書の題に沿って、「審判」と呼ぶ。 実は、日本語では、「審判」とざっくり一絡げにして呼ぶが、イギリス初のスポーツでは、英語で「レフリー」と「ジャッジ」、「アンパイア」というとき、その意味はまるで違う。第1章の西村雄一氏が述べているように、権限が違うので、注意が必要である。 また、相撲の世

書評 『大相撲土俵裏』、貴闘力著、彩図社、2024年

この本の凄いところは、存命の相撲関係者の名前を出して、批判しているところだろう。著者の男気を感じる。 本の冒頭から、「八百長」の話に入り、それが全て実名(四股名)で書かれているのだから、驚いた。私は、書店でその部分を読んで、すぐに本を買った。 残念ながら、私は、最近になるまで「相撲」にそれほど興味がなかった。この文庫本の元となった書籍の存在も知らなかった。そのため、この本の内容がどれほど突っ込んだものなのか、という評価はできない。勝手に想像したのだが、名前を出さなければ、

書評 『行動経済学が勝敗を支配する』、今泉拓著、日本実業出版社、2024年

スポーツ・ファンなら、今すぐ買うべき本だ。 まず、この手の本にありがちな、「まとまりに欠ける」、「終盤にかけてダレていく」ということがない、良書である。丁寧に構成がされていて、教科書を読んでいるようだ(教科書として書かれているかもしれないが。) また、著者はスポーツ分析の実務に携わっていたので、よくあるサッカー、野球という事例だけではなく、ゴルフ、テニス、マラソン等も取り上げている。これらのスポーツの分析は、私もはじめて読んだので大変興味深かった。ちょうど、オリンピックが

批評 『リディームチーム:王座奪還への道』、NETFLIX、2022年

本作は、2008年の北京五輪での金メダル奪還を絶対的使命として課されたNBA選手たちの軌跡を追うドキュメンタリーだ。 2022年の公開当時、「なぜ今なのか。」と思って観たが、観ていただくと分かると思うが、この映画は墜落事故で2020年に亡くなった、コービー・ブライアントに捧げられたものだった。 もう10年以上前の出来事なので、文脈を補足しておいた方がいいと思う。 チームを率いた「コーチK」の下記の本を参考に何点か指摘しておきたい。コーチKの本名は、マイケル・ウィリアム・シ

批評 『BELIEVE 日本バスケを諦めなかった男たち』、Prime Video、2024年

「ワールドカップ2023」でのバスケットボール男子日本代表の激闘を収めたドキュメンタリー映画である。 この映画は、昨晩見つけたのであるが、下の私の書評で書いた内容が映像化されていたので、分かりやすいと思うので、興味がある方は、ぜひ見ていただきたい。 私は、いかなるスポーツにおいても戦術オタクではない。戦術は、選手の能力を最大化するために使うもので、選手ありきで、監督がその選手を活かすために与える「タスク」の方が重要だと考えている。 ただ、2010年代にバスケ界に起こった「

批評『フェデラー~最後の12日間』、Prime Video、2024年

本作は、題名通り、ロジャー・フェデラーの引退試合までの12日間が描かれた作品である。 紹介文にもかかれているように、本来公開する予定で撮られていないため、フェデラーに去来する感情が、そのままフィルムに現れていて、好印象を与える素晴らしい作品である。 何と言っても、本作品の見どころは、2000年代のテニス界を盛り上げてくれた、4大巨頭、フェデラー、ナダル、ジョコビッチ、マレーが、引退試合に勢ぞろいするところであろう。これは、フェデラーでなければ実現しなかったであろう。 ま

書評『国際情勢でたどるオリンピック史』村上直久著、平凡社新書、2024年

オリンピック全史をたどる本だ。 元ジャーナリストで、アカデミズムにもいた著者が書いた本であるため、「コンパクト」ながら新書ではなかなかお目にかかれない「深み」のある本である。 オリンピック全史を知りたい方は、まず、これを読むべきであろう。巻末に参考文献があげられているのもいい。 新書という限られた紙幅の中で、的確に「エピソード」が取り上げられているため、この本一つで、「国際関係史入門」に耐えうる「レベル」に達している。 白眉は、「第5章 幻の東京オリンピック」、「第6

批評:『シモーネ・バイルズ 限りなき高み』、NETFLIX、2024年

本作は、100年に1人の稀代のアスリート、シモーネ・バイルズの東京オリンピックでの失敗から、パリ五輪の選手選考会までを描いた、スポーツ・ドキュメンタリーである。 偉大なスポーツ選手をドキュメンタリーで描くのは、彼女・彼が現役の間には困難である。彼女・彼は現役でプレーしているので、できるだけ選手の邪魔にならないように撮るからだ。 本作では、彼女が人生で遭遇した様々な困難が描かれるが、あまりにも多すぎて、いずれにも深くは突っ込んでいない。そのため、作品は表層的な感を否めない。

批評 『クォーターバック: 不屈の求道者』、NETFLIX、2023年

『レシーバー 風を切って走る』を見た後、本作を見直してみた。 圧倒的に、本作の方が面白い。 一般的に、スポーツ選手は批判に晒されてやすい。なぜなら、その全てのプレーが録画され、査定され、批判されるからである。 その中でも、NFLのQBへの、批判はかなり厳しい。比べられるなら、プロ野球のエースぐらいであろう。ただ、エースも全ての試合に登板するわけではなく、多くても5分の1ぐらいであろう。全ての試合に責任を持つものではない。 エースQBは、怪我がなければ全試合に出場し、攻撃

批評:『アメリカズ スウィートハート ダラス・カウボーイズ・チアリーダーズ』、NETFLIX、2024年

世界で最も人気があるプロスポーツチーム、NFL「ダラス・カウボーイズ」の世界で最もプレステージがある「チアリーダーズ・チーム」に1シーズン密着したドキュメンタリーだ(NFLに馴染みのない方には、エピソード6から見るといいと思う。チームが何をやってるか、よく分かる) ダラス・カウボーイズは、「アメリカズ・チーム」と呼ばれ、全米放送となると、3000万人もの視聴者を集める、アメリカのスポーツで最もファンが多いチームである。また、そのチアリーダーズチームも、その魅力の一つとなって

評論:『レシーバー:風を切って走る』、NETFLIX、2024年

昨日、NFLファンにとって待望の『レシーバー:風を切って走る』が公開された。NFLファンではない方も、NETFLIXに加入されているなら、ぜひ見て頂きたい。その世界に圧倒されることは、間違いない。 NFLの魅力は、その選手一人一人の能力がスーパープレイという形でどのスポーツより最も現れるスポーツであるということである。アスリートのスピード、パワー、スキル全てがスーパープレーにつながるので、初めてNFLを観る方でも、その選手の何がすごいか一発で分かる。 ルールが難しいという

書評 『勝者の科学 一流になる人とチームの法則』 マシュー・サイド著、永森鷹司訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2024年

まず、あやゆる翻訳書については、その原題を調べなければならない(日本で売るために、かなり原題を超訳したものが多いからである。 本書の原題は、”The Greatest: The Quest for Sporting Perfection"、2017年にイギリスで出版されたものである。 本書の邦題は「勝者の科学」である。しかし、その内容はいわゆる「勝者になるためには?」といった本ではない。 「勝者のレシピ」のようなものを求めて本書を手に取ると肩透かしを食らうかもしれない。