『みだれ髪』 与謝野晶子

「髪五尺ときなば水にやはらかき少女ごころは秘めて放さじ」

 浅い湯の中で仰向けになり長い髪を浸す若い女の姿が頭の中で映し出された。髪は時間をかけてじんわりと水の中で広がる。身に纏う布が一枚一枚めくられていくように。妄想を創り出す私の身体から余計な力が抜け、すぅっと脱力する感覚を確認した。実に官能的だ。

 そんな魅力的な黒髪でさえも超越する少女ごころ。この世のどんなものよりも純粋無垢で愛らしく奥ゆかしいそれは、壊れやすく繊細だからこそ大切にすべきものである。

 髪のように、視覚だけでわかる単純な美しさではなく、目には見えないたった1人の少女ごころがその人の魅力の本質なのである。
 繊細な少女ごころを大切に愛でている若い女そのものが美しい。 目には見えないからこそ、知りたいと思わせる色気ある魅力。  少女ごころは目に見えない。だからこそ男は探り始めるだろう。それこそが女性の魅力を醸し出している。

そもそも少女ごころは、心の奥底に秘めているから可愛いのだ。

 若者は誰しも抱えるであろうその心。他人のそれには無関心なくせに、自分のものとなると特別扱い。そんな自己中さも愛おしい。当事者からすれば、唯一の守るべきものなのだ。

髪も少女ごころも女性らしくて魅力的である。しかし少女ごころの脆く繊細で自分にしか理解できない美しさはこの世のどんなものよりも美しい。髪との最大の違いは他人に見せるか見せないか。秘めごとこそ、女性の最高級の魅力なのではないだろうか。

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