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子どもが複数の言語を学ぶ時は「母語・継承語」を大切に - 『完全改訂版 バイリンガル教育の方法 - 12歳までに親と教師ができること』を読んで、海外での子どもの日本語習得について考える①【027】

 複数の言語がある環境の中で、子どもたちはどのように「ことば」を発達させていくのでしょうか。

 私は、母語である日本語が圧倒的に強い日本で生まれ、ずっと日本語だけを使って育ってきました。そのため、複数言語がある環境で子どもがどのようにことばの力を身につけていくのか、あるいはどんなリスクがあるのかを体験していません。

 そこで、中島和子氏の『完全改訂版 バイリンガル教育の方法ー12歳までに親と教師ができること』(アルク選書シリーズ、2016)を読むことにしました。実は、日本を出る前にこの本を一度読んだことがあったのですが、オランダに来てから改めて読み返してみると、今の自分の子育ての環境にも照らし合わせることができたので、以前よりも深く理解することができました。

 この本では、子どもが言語を習得するための環境の在り方について書かれています。つまり、複数言語の環境に置かれた子どもたちが、ことばをどのように発達させるのかということを、過去の大規模かつ長期間に渡る様々な調査から分析しています。

 今回この記事では、この本から学んだことについて「これだけはいろんな方に知っておいていただきたい!」ところを記して共有させていただきます。
 本当は複数言語の中で子どもを育てておられる保護者の方に、この本を読んでいただきたいのですが、本の内容もかなりの分量があります。全てに目を通す時間的な余裕がない方のために、いくつかの視点に分けて記録しておこうと思います。詳しく知りたいと思われた方はぜひ本を読んでいただきたいと思います。

この記事が、子どもの言語発達を考える上で何かお役に立てたら幸いです。


子どもの言語発達は、とにかく「母語・継承語」を大切にする

 私がこの本で一番大きな驚きだったのは、子どもの言語発達は母語・継承語を基盤にして、それらと現地語がお互いに作用しながら発達するということです。

 複数の言語を発達させるために注意しなければならないことは、年齢や周囲の言語環境によって異なります。そのため、「バイリンガル(複言語話者なども含める)はこの方法で育つ!」というものはないと言われています。
 しかし、まず私たちが初めに理解しておかなければならないことは、複数の言語の中で生活する場合、母語・継承語と現地語の両方を大切にしなければならないということです。

 繰り返しになりますが、子どもが複数の言語で育つ場合、母語・継承語と第2・3言語は相互に影響しあい、母語・継承語を確立させることが第2・3言語の習得につながるとされています。また、母語・継承語が育っているという前提であれば、逆に第2・3言語の学習が母語・継承語の発達を促すということも分かりました。

新しい言語を習得しやすいのは、小学校低学年?それとも高学年?

 海外に移住した時、小学校低学年の子どもと高学年の子どものどちらが外国語の習得が早いのでしょうか。
 ことばの発達が未熟なだけに、低学年の方が新しいことばを身につけるのは有利だと私は思っていました。
 しかし、母語・継承語が確立している高学年の方が新しい言語の習得は早いそうです。
 また学習言語の能力として見た時にも、母語・継承語が確立されていない場合、それらも現地語もともに学力が伸び悩むとされています。そしてどちらの言語も自信がなくなってしまい、子どもの精神状態にも関わってくるのです。

 この内容にはとても驚きました。
 新しい言語を学ぶ時、母語・継承語がそれを邪魔するのではなく、お互いの言語が作用し合っているということです。
 つまり、母語・継承語を中心にことばを育むことが大切だということが分かりました。

 グローバル化が進行し、あらゆることがものすごいスピードで変化する世界の中で、異なった価値観を持つ人といかにうまく折り合いをつけていくかが重要になっています。
 そのためには、複数の言語を身につけることが重要です。そして、複数の言語を身につけることによって、子ども自身の世界が広がるとともに、世界全体がより密につながっていきます。
 しかし、1人1人の子どもの大切な人生をより豊かにするためにも、複数の言語を学ぶことはどういうことなのか、どんなリスクがあるのかを大人が理解しておく必要があると思いました。

 また別の記事で複数言語を学ぶメリットや注意点などについてまとめたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

<参考文献>
中島和子『バイリンガル教育の方法ー12歳までに親と教師ができること』(アルク選書シリーズ、2016)

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