そこに正解がなくてもチャレンジする - 映画"Most Likely to Succeed"から学べること【Aflevering.22】
アメリカのカリフォルニア州サンディエゴにある"High Tech High(以下、HTH)"という高校で、新しい教育に挑戦する人たちの姿を描いた"Most Likely to Succeed"という映画を観ました。これは約6年前に公開された映画です。
これは、教員として「プロジェクトベースの学び」をしたいけれど、どう実践して良いのか分からない方や、教員としてあるいは保護者として「教育のこれまでとこれから」について詳しく知りたいという方に向いているドキュメンタリー映画だと思います。これらの点について、私にも大きな学びがありました。
HTHは公立の学校で、学力試験で選抜された生徒が集まるわけではありません。そして、学校では当たり前とされている、科目ごとに分けられた授業や教科書、定期試験、成績表などがなく、生徒たちは学期末に行われる「展示会」に向けてプロジェクトベースの学びを数ヶ月に渡って取り組みます。
しかし、新しい教育に対する不安や疑問はもちろん存在し、それに対する保護者や教員自身のリアルな声も描かれています。新しい教育に対する良い部分だけをフォーカスするだけでなく、当事者たちが抱く気持ちもそのまま表現されているため、リアリティを感じられる映画でした。むしろ、そのリアリティに私は大きく心を動かされました。
この映画を観て私自身が考えたことを、「教員自身もチャレンジしている」と「教育の影響力の恐ろしさ」の2つの観点から記録しておきたいと思います。
教員もチャレンジャー
この映画では、従来型の教育がどのような過程を経てきたのか、なぜ今教育が変わらないといけないのかがとても分かりやすく描かれています。また、時代の変化に合わせた教育への取り組みは、まさに手探りで行われ、このHTHの学校でも大きなチャレンジが続いています。
私の中での驚きの1つ目は、今述べたように、High Tech Highの教員も試行錯誤の中で進もうとしていることです。
これまで私が読んできた書籍でも、HTHの教育について紹介されていました。その時は、HTHの教員というのはそれぞれの実践に成果が出ており、問題解決学習のプロの集団が生徒たちの指導にあたっているのだと思っていました。しかし、映画の中で観た彼らは、まさにHTHの中で闘っていたのです。
HTHを観るまでの私は、HTHの中に答えがあるのではないかという、「正解主義」的な見方を無意識にしてしまっていたのかもしれません。彼らもまたチャレンジャーでした。
教育の影響力の恐ろしさ
新入生が入学後、初めて教室で顔を合わせるシーンがあります。私はそれを観て驚いたとともに、無知な自分を恥じました。
私のアメリカの高校生のイメージは、みんな誰とでも自由に話すことができ、授業などではディスカッションなどが自然と盛り上がるような雰囲気なんだと思っていました。しかし、HTHの新入生の様子は日本の生徒たちと似たような雰囲気だったのです。みんなが集まっていても、教室は静かで、先生からの指示があってもうまく動けない生徒ばかりでした。このシーンはぜひご覧いただきたいと思います。
「生徒たちの雰囲気」というのは、もちろん国やその地域によって異なるとは思いますが、「受けてきた教育」もそれと同等に大きく影響するということが分かりました。詰め込み型の教育を受けてきた生徒たちにとって、自分の考えをうまく表現することを求められた時、それが難しいということです。その姿はまさに、私が高校生に答えのない質問をした時と同じような、答えるのに困ったような表情でした。
生徒のトライアンドエラーを見守る忍耐力
HTHの生徒は時に大きな失敗を経験します。「展示会」に作品が間に合わない、それは子どもの自信を奪ってしまうのではないかと大人は心配してしまいます。しかし、フィードバックをしっかり行うことによって、その失敗こそが次につながる学びになるということをこの映画は教えてくれます。そのシーンもぜひご覧いただきたいです。
生徒が問題に直面した時、保護者や教員はどうするべきかの方針をすぐに示してあげたくなります。
私もかつては、生徒に進む道を示すことが自分の役割であると考えていた時もありました。しかし、たいていは大人の感覚や都合で、無責任にいろんなことを押し付けてしまうことが多いように感じます。
ただそれは、「失敗してはいけない」仕組みが学校教育の中にあるから、つい口出ししたくなってしまうのかもしれません。入試で点数が取れないと大学にいけない、次の進路につながるための良い成績を付けてもらうためにはテストや提出物を良い評価をもらえるように頑張らないといけない。
このように、緊張感の中で結果を出すことが大切な時もあります。しかし、失敗したその後もそれを引きずってしまうような窮屈な状態で「失敗を経験できない」というのは、これからの社会の変化を考えると、とても危険なことのように思えます。
特に昨年からのパンデミックによって、社会の変化は目に見えて分かるほど、更にスピードを増していきます。
その激動の社会の中で適応していくために、これから私たち一人ひとりが手探りでトライアンドエラーを繰り返しながら模索していくしかありません。また、失敗することを恐れたり、失敗をいつまでも引きずるわけにはいきません。
子どもが自らの力でこれからの社会の中でたくましく生きていくためには、そういったトライアンドエラーの経験を通して、視野の広さや忍耐力を身に付けさせることが必要です。
子どものためと思ってする大人の思いやりが、逆に子どもの成長を奪ってしまわないように、私自身も親として常に気をつけなければいけないと思いました。
学校現場の「リアル」が何よりも魅力
新しい教育への挑戦というと、なんだか聞こえが良くなってしまいます。しかし、この作品では、新しい教育に対する期待と不安の中で葛藤する生徒、保護者、教員の姿に触れることができます。
テストがなくて大丈夫なのか、歴史などの科目の勉強をしなくて問題ないのか、いろんな葛藤が保護者の中にもあります。
そんな保護者たちの不安はなかなか解消されないのですが、展示会の後のフィードバックが行われている時に、問題解決学習によって少し立派なったように見える我が子の心の成長を感じて思わず涙を流す親の姿には、私も涙がこぼれました。
子どもの心の成長を直に感じて喜ばない親はいません。
もちろん将来のために試験の成績が大切なこともあります。しかし、それよりも親は子どもに「幸せになってほしい」と願っているのだと感じました。
入試をどのようにしていくべきなのか、これについてはこれからも問い続けなければなりませんが、少なくとも問題解決学習によって成長した生徒は勉強に対するモチベーションも高く、試験勉強も自分たちで乗り越えていくことができるのではないかと思います。
詰め込みは忘れやすい、それなら。
詰め込みは忘れやすいというデータが調査によって出ていることが紹介されています。そして、「どうせ詰め込んで忘れるなら、違う方法を試しても良いのではないか」という考えに大いに共感しました。
むしろ、問題解決学習は、知識ではなく姿勢や行動に関わるので「忘れない学び」になります。
この映画に出会えて本当に良かったです。
「答え」はないが「ヒント」はある。
私も今できることをこれからも精一杯続けていきたいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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