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【第23話】移住のリズム、35年間見てきたものは日本のほんの一部に過ぎなかった(②お祭り編)

◇「田舎は退屈」って、いったいどこの話だ?

 移住前、「島(田舎)では単調な毎日で退屈するのでは…」と心配になったりもしたが、杞憂とはまさにこのこと。なんかもう、こっちが呆れちゃうぐらいイベント目白押しです。この大三島というか、しまなみ海道沿いの島ならおそらくどこでも。

 何百メートルもの藤棚(&大量のクマバチ)に息をのむ「藤まつり」、和製ジャンヌダルクと呼ばれた村上水軍の姫・鶴姫の「鶴姫まつり」、あと花火も豪華で、都心の中堅花火大会に匹敵するんじゃないかと思うほどである。しかも人ごみがないので、岬にアウトドア用の椅子出してお弁当食べながら、海に花開くゲージュツ満喫しちゃったりしてさ。

 クラフト市も贔屓目じゃなくてレベル高い。そっちの世界では結構大手の雑司ヶ谷「手作り市」好きで通ってましたけど、大三島の作品持って行ったってあそこで人気出ると思うもん。この島ってこだわりがあって移住してきた人が多いから(ときに気難しい一面もあるけど)、そりゃあイイ物できるってもんです。

 大きいイベントは月イチ、小さいものなら探せば毎週どこかでやっているんじゃなかろうか。

 数々のイベント実行委員を歴任しているミカン農家Hさんはそれでも飽き足らず、沖縄音楽で踊りたいよぉと手弁当で「沖縄ナイト」なるものを開いていた。夜の桟橋にDJ呼んで三線弾きながら呑んで踊って――、いやはや挙げればキリがない。夫によれば、彼のスマホのLINEグループでは、そういった「○○の会」のスレッドが増殖して大変なことになっているらしい。

 楽しそうだけど全部参加してたら身体がもたないというのが本音のところ。ヒヨってどうするって? おお、何とでも言ってくれたまえ。


◇何人をも包み込む、温かな「おふざけ」

 イベントの最高峰といえば、やっぱり神事かな。

 田舎の祭りに抱いていたイメージと言えば、やっぱり三浦しをんの『神去なあなあ日常』。夢も目標もない18歳の青年が突如林業の村に送りこまれるって話なんだけど、そこでの秋祭りは「樹齢千年の巨木にまたがって、山の斜面をジェットコースターのように滑り落ちてくる」という絶叫ものだった。

 ここ大三島のお祭りも、期待を裏切らない味わい深さがある。

 例えば、日本の奇祭としても挙げられる「ひとり相撲」

 豊作を祈願して、目に見えない稲の精霊と力士が戦うという、今風に言うなら「エア相撲」である。伊予之国一ノ宮である大山祇(おおやまずみ)神社で春秋に行われる御田植祭・抜穂祭の一部で、正式には「一人角力」らしい。

 毎年、田植えと稲刈りの時期で2回開催され、先日の祭は10月21日。力士の名は「一力山(いちりきさん)」である。

 え、確かに一人だって? いやいや、精霊さまがまわし取られてるじゃないですか。見えないの? いや見てください、心の目で。

 まずい! 土俵際に追い詰められ、大ピンチの一力山。

 精霊のまわしをつかんで、なんとか持ちこたえ……た!

 ……と思ったけど、やっぱり強ぇわ。精霊。

 そんな三番勝負の行く末を固唾をのんで見守ったり、爆笑をこらえて(だって一応真剣勝負だから)肩を震わせる我々観客。

 取り組みは3回勝負で、必ず2対1で精霊に花を持たせることが決まっているそうだ。実はこの一力山は職業力士ではなく、役場の職員さん。だが、かれこれ十年以上も拝命しているだけあって、見せ方を分かってらっしゃる。

 この祭り、よそでも人気みたいでさ。一見のどかそうに映るが、舞台の脇ではテレビ取材班やアマチュアカメラおじさんによる別の死闘、別名「場所取り合戦」が繰り広げられているのであった。


◇そのうち、これなしではやっていけなくなるのか?

 こっちの人たちは、ふざけたり冗談を言ったりすることが得意だ。神事だろうが、患っている病の話だろうが、大らかなジョークで包み込む。まるでそこに定型文でもあるかのように。

 今日も早朝から山の上のお寺で草刈りだったんだけど、落ち葉を竹ぼうきで掃いていたら……「もう適当でいいけん。ゴミも高きから低きに流れるっていうてなーー」って、近所のおばちゃんが溜まったゴミと塵取りを引き上げて、神隠しのように消えていった。そのあとは、みかんのキャリーとベニヤ板でこさえた即席テーブル&イスでお茶タイム。まぁ、こちらも半分冗談みたいな話が延々と続くんだけど。

 自分はまだいちいち真に受けて右往左往してる。でも、いつかこの人たちのジョークに救われるんだろうという気がしてならない。

 明後日から18連泊の東京出張。その間、このジョークが懐かしく思えるときが来るんだろうか。

                              (続く)

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