見出し画像

鳩の撃退法【読書のきろく】

現実世界をまるごと飲み込んで楽しませてもらいました

今年の夏に映画が公開される作品、『鳩の撃退法』。
読み終えましたよ!おもしろかったです!!と伝えたくなるのは、noteを通じてこの作家さんを教えてくれたあの人。
点と点がぐるっと何周か回りながらつながっていくおもしろさは、作品の中身がそうだったし、ふとした出会いにも通じるよな、とか思ってしまいました。

誰かと誰かがどこかで出会って、モノや情報が受け渡されていく。ほんのちょっとのタイミングの妙で、出会ったり、すれ違ったり、それが事件を引き起こしたり。コトの大小に違いはあるけど、僕たちは不思議な巡り合わせの中で生きています。
その不思議さを、余計なものをすべてそぎ落としてまっすぐな展開にはせず、脱線した枝葉の味わい深さもできるだけ残して鑑賞できる状態に整えて、物語として仕上げられていると感じた作品でした。

主人公は、過去に直木賞受賞がある小説家、津田伸一。彼が体験している「現実」と、彼が書いた「小説」が、交錯しながら物語が進みます。どこまでが「現実」で、どこからが「小説」なのか、分からなくなる。けれど、混乱するからもうやめたいという気持ちは少しも湧いてくることがなく、行ったり来たりに振り回されること自体が楽しくなって、身を委ねたくなりました。ちなみに、映画の予告編動画では、「小説」に「ウソ」とルビが振られています。

半分(上・下2冊のうちの上巻)まで読んだところでも書いたけれど、魅力的だと感じたのは、たくさん出てくる雑談の場面。何度も聞き返したり、話しながら別のことを思い出したり、他の作業に気をとられたり、一緒にいる人が割り込んできてまとまらなくなったりと、普段の僕たちの雑談そのものが表現されています。もちろん、文字表現なので発声の重なりは分解されて言葉が並ぶけど、読んでみると頭の中で雑談のまとまりのなさが再現されるのがおもしろかったです。

津田伸一が書く小説、ということは、佐藤正午さんが書いた大きな物語に、すっぽりと飲み込まれました。

あまりにもその世界に引き込まれてしまったからか、僕自身の現実でも、物語から飛び出してきたような出来事に遭遇しました。後半部分に差し掛かって、バラバラだった点がひとつずつ、つながっていた頃です。物語の大きなテーマのひとつが偽札騒動で、101万円が何かの動きを生み出そうとする場面があります。僕は移動中のバスの中でそこを読んでいました。目的地に着いたので本を閉じてバスを降り、その先の展開が楽しみだなと思いながら歩いていると、突然目の前に札束がドサリと落ちてきたんです。

場所は、博多駅の筑紫口。もちろん、目の前に札束が落ちてくるなんて、人生ではじめての体験。現実感のなさに、ビックリしました。小説の中で登場するなら、裏社会の手下として活躍して中ボスクラスになっていそうな、黒いTシャツの体格のいい外国人が落とし主です。

その時の様子が印象的だったので、小説っぽくしようと意識しながら書いたのはこちらのnoteです。

読んでる途中も、本を閉じた後でも、僕の意識をまるごと飲み込んで楽しませてくれた作品でした。

この作品の裏側は、『書くインタビュー②』で語られているそうです。そちらはこれからのお楽しみ。待ちきれない人には、佐藤正午さんの存在を僕に教えてくれた、大前さんのnoteをオススメします。

読書のきろく 2021年32・33冊目
『鳩の撃退法』
#佐藤正午
#小学館文庫

#読書のきろく2021 #小説

この記事が参加している募集

読書感想文

最後まで読んでいただきありがとうございます!少しでもお役に立てたら嬉しいです(^-^) いただいたサポートは、他の誰かのお役に立てるよう使わせていただきます。 P.S. 「♡」←スキは、noteユーザーじゃなくても押せますよ(^-^)