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瓶の中の黒電話

「ねえ、みてもいい?」
「ああ、いいよ。」
あやかが聞くと、おばあが答えた。町はずれの日本家屋に、おばあはひとり暮らし。棚に古い写真と並んで、ガラス瓶がある。中には、小さな黒い電話が入っていた。
あやかが顔を近づけると、おばあが語り始めた。

「これは、昔の電話。丸く並んだ数字を、ひとつずつ指で回して電話をかけるのさ。数字はいつも、ゆっくり動く。見てたら不思議と気持ちが落ち着いてね。話す前に、相手が今どうしてるか、伝わってきてたよ。」
「ほんとに?」
「ああ。ほんとは誰でも、離れた相手のことが分かる。だけど、いそがし過ぎて忘れてしまった。それを思い出すために、この黒電話を作った。手のひらに乗せて気持ちを集中させたら、相手のことが分かるぞ。」
「ねぇ、さよちゃんが元気にしてるか、わかるかな?」
「もちろんさ。落ち着いて、さよちゃんのこと考えてみな。」
おばあが黒電話の入った瓶を持ち上げ、あやかのそろえた両手に、そっと乗せてくれた。

-了(410字)-

お題にそった410字以内のショートショートを投稿する、「 #ショートショートnote杯 」。
こないだの日曜で募集期間は終わってしまったけど、410字縛りがいい訓練になる気がして、今週も挑戦してみました。

タイトルは、新たに考えたもの。
最初に田丸雅智さんの講座を受けた時に教わった、「不思議な言葉」の作り方で考えてみました。

使った言葉は、ハチミツと黒電話。
どちらも、地域で使わせてもらっている古民家にあったもので、ハチミツが入っていた瓶と黒電話をつなげて『瓶の中の黒電話』が生まれました。

アナログな感じから五感を働かせる。大切にしたい感覚です。

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