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進化し続けていく「一日」を実践する、平岡珈琲店 オーナー 小川流水さん

平岡珈琲店のオーナーであり、剣術や講演など幅広く活躍され、毎日を真剣勝負で生きていらっしゃる小川流水さんにお話を伺ってきました。

〜小川流水さんプロフィール〜
出身地: 大阪府 大阪市
活動地域: 大阪市周辺
経歴: 大手前高校を経て関西学院大学文学部フランス文学科に入学。関西学院大学を卒業後、北船場で平岡珈琲店の三代目店主として家業を営む。また、古流の剣士として居合道の普及にも勤しみ、著書は「淀川の治水翁・大橋房太郎伝」東方出版2010年初版し、活動範囲を広げている。 

【自分の頭で考える】

記者: どうぞ宜しくお願い致します。

小川流水さん(以下小川、敬称略): どうぞ宜しくお願い致します。
先日、相愛大学で『コーヒーから見える世界情勢』というテーマで授業をしてきました。

記者: 面白そうですね。

小川: お話したのは、これから社会に出ていく人達が、世の中に出ていくにあたって、どういうチャート海図を描くのか、未知の海へ出ていくわけですから、地図が必要なわけです。どういう進路を取るか自分で決めないといけない。チャートをどうやって書くのか、どんなチャートを持つのか、どこへ向かって船を出したいのかという事を、自分の頭で考えて欲しいと思っています。
ここ30年位の間、世界のコーヒー生産国ベスト10、そこがどう入れ替わって行ったのかというグラフを見ていくと、30年前って毎年の変化はそんなに大きくないんですよ。2000年に近づくにつれて、入れ替わりが激しくなっていきます。それを実際に見て頂いて、「なんでここで入れ替わっていくんでしょうね」とか「この年に何があったんでしょうね」という事を皆に問いかけながら、考えてみてくださいね、ってヒントを出して行く。
ネットのデータは、最初から色がついていることが多いので、答えではないですけれど、私はこう思いますとか、生のデータを読み解いていく事で、自分なりの情報を掴んでいく。自ら考えていかないと、ネット世論に振り回されて進路を持てない。まずは頭に、目的は何なのかという事をはっきり置いておかないと、世の中に出て行った時にずる賢いだけの大人になる。


【仕事っていうのは経験。経験するチャンスをもらえなかったら、何かを持っていてもちっとも進歩していかない】

記者: 小川さんがコーヒー屋さんや剣術、大学の授業、講演会を通して、どんなビジョンを目指されているんでしょうか。

小川: 自分にしかできないことをしたい。自分にしかできないことを持っていれば、人との繋がりが広がるし、仕事のチャンスが増えるんですよね。仕事っていうのは経験ですよ。経験を積んでいく事によって、自分は更に上へ上がっていくことができる。経験するチャンスをもらえなかったら、何かを持っていてもちっとも進歩していかないですよね。すぐお金に結びつけて考えるのではなく、長い目で見て、自分の経験が密度濃く、次のチャンスが来るようにしていくには、やっぱりオンリーワンのアピールをしていかないといけない。


【歴史は失敗の積み重ね】

小川: ここはコーヒーについて独自のノウハウを持っている、歴史のある店なんですよ。歴史があるということは、色んな失敗も経験もある。僕一人の経験でなく、父の経験もあるので、積み重ねがあるんですよね。それは人に伝えることができるわけです。
剣術に関して言えば、子供の時からチャンバラが好きで、50年ぐらい剣道をやっていました。本格的にやったのは32 年ほど前、サラリーマンを辞めてこの店に入った時、店の仕事に振り回されるんじゃなく、もうひとつの顔みたいなものを持ちたいと思い、英信流という剣術の先生を探して弟子入りをし、勉強を始めました。
剣術は古武術なので、400年、500年の積み重ねがあるわけですよ。そこで伝えられてきたノウハウがあるわけですよね。それを学ぶっていうのは意味あるなと。刀には一種の神秘性もあるし、刀自体も1000年以上の歴史があるわけですよね。実際、長い歴史を持った刀を直接手に持って、触れて使う、という事を通して得られるものがある。その中で得たものを人に伝えたいというのが、講演会の仕事なんです。最終的には書物にする事も考えています。「僕が書いた本です」って持ってるのと持っていないのでは、説得力が違うのでね。

記者: 伝えたり、残していきたいという思いをお持ちなんですか?

小川: あります。歴史っていうのは先人の経験の積み重ねなんですよね。僕は特に失敗の積み重ねだと思っています。武道の世界では、「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」っていう、なぜだか分からないけど勝ってしまった、という事があるんです。自分でも何故勝てたのか分かってない。たまたま自分のやった事が理にかなってたのかも知れない。本人が分かってないまま、これでいいんだと思ったら、どっかで失敗するわけですよ。だから成功体験はあんまり役に立たない。
だけど失敗した時は、何であんなことしたんだろうって、絶対分かるんですよ。ここが間違ってたから失敗した、ここでミスがあったから負けた、というのは実感として絶対分かる。だから伝えられるわけですよ。伝統芸能として長く伝えられてきたっていうのは、そういう手痛い失敗から得た教訓の積み重ねであって、その長い流れの中の、ほんの何十年間、ここにいてるわけなので、消費するだけではやっぱり駄目だし、自分がそこに居たっていう証はそれを伝えることだな、と思っています。それには効率的な伝え方もあるし、それを工夫しないと「見ておけよ」とか「盗んで覚えろ」とか、そういうやり方だけでは一人の人間に教えられても、多くの人間には伝えられないわけです。そこはちょっと工夫が必要かな、ということで取り組んでいます。

記者: 失敗を伝えて行こうと思ったのは、何がきっかけだったんですか?

小川: それは子供の頃からです。剣道の試合で負けたら悔しいですよね。勝ちたいと思いますよね。それが根本じゃないかな、という気がします。ここを直すためにはどうしたらいいんだろう、と考えるんです。だから結構、武道やってる人っていうのは、学歴は別として、インテリジェンスの高い人が多いですよ。
スポーツ指導者っていうのは自分のノウハウを押し付ける人が結構多いんです。「黙って俺についてこい」、「自分の頭で考えるな、俺の言った通りにやれ」と。特に球技みたいにチームスポーツの場合は、それぞれ2点で考えていたら、コミュニケーションを取れなくなっちゃうから、本当は司令塔がいて、手足のように動くのが理想なんですよね。だから野球の監督やサッカーのコーチっていうのは、比較的独裁型の人が多い。選手に考えさせないので、やっぱりパワハラが起きやすい。
武道の世界でもいないことはないですけど、基本的に一対一ですし、体格や筋力、経験してきたことも違うので、偉い先生の言う通りにやったからって勝てるわけではない。絶対に、独自の工夫をしないと上がっていけないので、だから言われた通りにはしない選手の方が上に上がっていく。

【生きてるっていうのは何かを進化させたい 成長させたいという共通した思い】


記者: お話しを聞いていて、何かを進化させたい 成長させたいっていう共通した思いがあるのかなと。

小川: 生きてるっていうのは、そういうことだと思うんですよ。

記者: 何を進化させたいと思いますか?

小川: 言葉にするなら 宇宙と言うか、 私たちが見ている世界っていうのは どんどん劣化していく運命にある。それは宇宙ってポンって爆発が始まって広がっていって、やがて沈黙の世界になっていくわけです。

これはあらゆる物理学者が言ってることで、エントロピーの法則と言うものです。だから水は高いところから低いところへ流れて、最後は海に行ってそこで止まってしまうわけですよね。 またそこで蒸発して輪廻を 繰り返す。
同じように人間も生まれたら、あるところまで成長したら死んでいきます。 このように最初が一番高いエネルギーを持っていて だんだんエネルギーが小さくなってゆく、という流れの中で、「命」というものだけが一瞬 逆転してるわけですね。何もない小さな一つの細胞から生まれてそれが増え続けて成長して、いろんなものを取り込んでいき大きくなるが、やっぱり根本的この世の仕組みに逆らうことができなくて、また衰え始めてやがて死んでいくわけですよね。

でも最初からこんな状態ではなくて成長というものが命の中には必ずある。なぜか不思議なことに命だけがそうなんですよね。 あらゆる物質は滅びて行こうとするのに、命だけは逆に成長しようとするし自分を増やそうとする。 そして自分の持ってるものを次の世代に遺伝子として残そうとする。 すごく不思議な存在ですよね。自分の中に命っていうものがあるわけですよ。

何で生きてるか生かされてるかって考えると、成長しようとするそのエネルギーが命なんだと思う。だからもういいやって諦めちゃったら、おそらく命の意味を失ってる と思います。

誰もがひどく挫けることはよくあるし、できたことができなくなっていくし、体の衰えはいくら頑張っても拒否できないと思うのですが、なにか武術の中にそれを超えるものがあるかもしれないなと。

肉体の進歩がイコール強くなることであるのなら、若い方がいいし体の大きい方がいい、筋力強い方がいいわけですよね。
だけど、人と人とが戦って勝てるかどうかにはいろんな要素があって、そういう力や年齢ではなく経験や知恵があるから勝てるかもしれない。
逆に若くて力があっても、経験がない事によって破れる可能性もある。そこに何かの可能性があるっていう気はするんですよね。
だから年をとってもずっと続けてきたと今は思ってます。明日はどうかわからない。


【人の心から心へ伝わる部分、感覚に伝わる部分は、やっぱり人間にしか伝えられない】

記者: 剣の世界と味の世界、コーヒー豆の共通することは?

小川: 感覚だと思います。 言葉や理屈で説明すると、落ちちゃう部分がすごくあります。 だからビデオ直伝はマンツーマンで教わってないから、肝心の形は覚えられるけど一番大事なものは落ちてるわけですよね。

一番よく言われたのは阿波踊りロボットっていうあるモーションキャプチャーで、名人の阿波踊りをデータ取ってそれを Android で手足の動きはその通りに踊らせる。でもどう見ても不気味で何か違うんですよ。 だから形は形じゃなくて学ぶための手段なんですよね。その形の中に何か人に伝わる独特な動きがあるわけです。

それって理屈で説明できない事だし、デジタル記録しても落ちちゃう部分がある。人の心から心へ伝わる部分、感覚に伝わる部分はやっぱり人間にしか伝えられないし、人間しか知ることのできない感覚ではないかなという気がします。

だから味の記憶。 味も音感と同じで絶対味覚がありますからね。相対味覚と絶対味覚ってある。 相対味覚はどっちとどっちが塩辛いかですが、かなり敏感の人だったらこっちの方が塩辛いとか、こっちの方がうまいってテストできます。
料理人っていうのは最後の部分は加減です。マニュアルで10gの塩を入れる所を少し引くとか、今日はちょっと暑かったし汗かいてるから足すとか 感覚の部分ですよね。
そういうこともマニュアルだけだったら、ずっと同じ味なのに受け取る方は塩味足りないと感じるわけです。

感覚の部分を感じて、今日も同じ味だったって言ってもらえるような文化は、ノウハウだけ、形を覚えても勝てない。だから今日の相手の動きを見て加減しなくちゃいけない。
特に武道の世界だったら、技自体も変わる可能性があるんですよ。

記者: そこを伝えるの難しいので、先生に回っちゃうとマニュアルという形でしか伝えられない。だから小川さんは現場に立たれてることを大切にされて、自ら動き続けると言うか そういうスタイルを取られているのですね。

小川: おじいちゃんになってしまってプレイヤーであることを止めてしまったら、その現場の臨場感って絶対失われると思うんです。あるところで諦めてしまったり、楽を覚えてしまってプレイヤーであることを止めて先生になってしまった人達って、みんな紋切り型になってるんです。こいつも同じ病気にかかったなあと思って、本人は進歩したと思ってるんだけどね。偉くなったから口で教える。全然伝えるべきことを伝えてない

記者: では小川さんもご自分の感覚を磨き続けてということですね。

小川: そう有りたいと思います。
ワークショップの時も稽古の時も 生徒さんと同じ数だけ技をします。「はいやって」と言ったら楽ですけど、それでは見えてこないものもあるので、一緒にやって見本を見せないといけない時も多くあります。
それは剣道の道場の師匠からも、剣術の方の師匠からも言われました。剣道の先生は凄い厳しい人だったから、「元に立つものは、下のものの倍稽古」と言われました。 先生は一番しんどいんです。


記者: ある書家の先生の書画展に行って、生徒さん達がとてもうまくって、「先生って言っても何が違うんだろうな」と思っていたら、先生の作品を見た瞬間、全然違ったんです!
先生にお話を聞いたら、いかにどこまで細かく繊細に観察できるか、ということをおっしゃていて、私は今、教育の仕事していて「認識」というものを扱っているのですが、私は先生のお話しが、“どれだけその認識ができるかという違い”なのかなと思いました。
このコップ一つがただこの形とか、水が入ってるという「認識」する人もいれば、このコップに対してのガラスのこの雰囲気だったり、どこまでを観察できるのかを捉えられるかで、それを表現できることに凄いつながっている感じがしていました。

小川さんのお話しも、どれだけの無意識の部分を意識的に「認識」できて、体を使うとか、見えないものを感じ取って無意識なところを意識できるか、活用できるかという、その「認識」なのかなと。


小川: 「認識」は、いい言葉ですね。 五感プラスもう一つというのは、「感じる」ということですよね。 感じるという総合的なものだと思います。目に見えるものというのは網膜に映った情報を頭で認識する、音が聞こえるというのは鼓膜が揺れるものを頭で認識する、というように、いろんな情報を集めて像を作り上げるわけですけど、それだけでは多分足りない。
なぜこう動いたんでしょう?なぜこんな大きな音を立てたのか?など、それが一番の「認識」ですよね。全体像が見えないわけですから、それは僕にとっては「感じる」ということになります。

記者:「認識」にすごい通じるなと思って、とても面白いです。
小川さんが、動き一つとっても、そんな深い緻密なイメージがあるか、ないかで全然違うんだって、実践されてらっしゃると言うか。


【 宮本武蔵の言葉「昨日の我に今日は勝つべし」 】

記者: 小川さんのお話しを聞いていると、「進化」と「変化」と「感じる」がキーワードのような気がします。

小川: モヤモヤと考えていたことを喋ってしまったような気がします。これからどうなるんだろうと思っています。

記者: 目的や目指すところもどんどん進化するのですね。

小川: そう思います。 今日思っていることを明日も見てるようでは、進化してないということですよね。だからずっと、30何年間武道をやり、同じ店に立ってきた中で、目指してきたものは変わってますからね。コロコロ変わるという意味ではなくて、やっぱり何かクリアした時に次のものが見えてくる。それがなくなって、これだけやってたらいいんだってことになったら、それちょっと生きていなくてもいいよなっていう話しです。

記者: それ「組織論ティール組織」でもありますよね!それにも通じるなあって。目的が進化し続けるという変化成長と言っていますね。

小川: それがなかったら陳腐化しますよね。
命のメカニズムってそういうものかな?ひょっとして形が決まったら死んでしまうんですよね、それって標本になっちゃうので。

記者: 形が変わり続ける。

小川: そうです。命って変わりつづける。でも限界がある。
組織だって必ず最後は限界に向かいますからね。永遠は絶対にない。ないけれど

記者: でも、それを目指すっていうことですよね。

小川: そう、諦めたらそこで終わりです。頑張りたいです。

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小川流水さんの詳細はこちらから!!
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*Facebook
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*平岡珈琲店
https://www.cafe-hiraoka.jp/

【編集後期】
インタビューの記事を担当した、山口、大槻です。
小川さんのお話は、コーヒーや世界情勢、剣術、歴史、物理学、感覚、認識など、あらゆる分野に通じる本質的なお話で、どれも興味深く伺わせて頂きました。生きることとは?人間とは何か?という、人間としての在り方を追求され、様々な形にして伝えていらっしゃる姿が、いつでも真剣勝負の緊張感と、終わりなきチャレンジの姿勢に感じられました。
インタビュー後、剣術体験に参加させて頂き、一つ一つの動きがどれも意味があり、無駄がなく、考えが大敵という武士の世界を少し味わう事ができました。貴重な体験をさせて頂き、ありがとうございました!
これから益々のご活躍、応援していきます。

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この記事はリライズ・ニュースマガジン”美しい時代を創る人達”にも掲載されています。

https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36

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