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「弱いまま」で集うから成功する! 『モンスト』開発チームの舞台裏

画力がすごく高く、「このゲームをおもしろくするためには、こういう絵を描かなきゃいけない」と常に考えられる20代のデザイナー。でも社会性はゼロで、会社員なのに1年のうちに出社できたのは、たったの12日(笑)。

『モンスターストライク』(以降、『モンスト』)は、そんな愛すべきスペシャリストたちが揃ったチームによって開発された大ヒット作です。

そのジャンルで先頭を走るには、何といってもチームで結果を出すことが大切です。では、どうすれば良いチームはできるのか? 

過去の失敗や『モンスト』での成功などを振り返りながら、ぼくなりの「チームづくり」についてお話しようと思います。

エース級のメンバーを揃えながら失敗したワケ

以前お話した通り、ゲームリパブリック解散の理由はヒット作がなかったことでした。その主な原因の1つが、「チームづくりの失敗」でした。

各社のエース級の優秀なメンバーを揃えながら、彼らをうまくまとめることができなかったんです。

たとえばAくんとBくんの意見が対立した場合、ぼくは2人の意見を半分ずつ採り入れたような解決案を提案していました。折衷案、ですね。

ところが、個性も我も強いエース級の2人。どちらも部下を持つ立場でもあるゆえにか、「岡本は自分の意見を聞いくれない」と、それぞれが不満を溜めてしまいました。両者の声を聞いたつもりが得意分野でぶつかり合い、最悪な結果になっていたんです。

みんなの意見を聞くだけではなく、「片方が持ってないけど片方は持っている」「それぞれの穴埋めができる」といった補い合える構造に、ぼくがしなければいけませんでした。

チームの舵取り役として意識すべき3つのこと

一方で、ぼくが初期開発に携わり、いまもヒットし続けている『モンスト』は、「チームづくり」が成功したケース。特に以下に紹介する3点を、ぼくがチームの舵取り役として上手くできていたからだと思っています。

1.メンバーそれぞれの「長所のみ」に目を向けること

『モンスト』チームは、そもそもメンバーに恵まれていました。

ディレクターは、「まとめる力」がすごかったことに加え、レベルデザインの数値調整力が神がかっていた。ゲームは、プレイヤーのレベルがなめらかに上がっていくのに合わせて敵の強さなんかも調整しなきゃいけない。そこの設定を、彼は4000段階くらいに調整できるんです。

そこまで細かく数字に落とし込むのって、めちゃくちゃ勇気がいることなんですよ。ぼくはできて、せいぜい32〜64段階。そこを何千のレベルで書けるというのは、もう見えてる世界が違うんです。

プログラマーは、頑固な面もありつつも、経験が豊富で、昔組んだプログラムで学んだことや反省を次のプロダクトで素直に活かせる能力に長けていました。そしてバグが少なく、何よりも高い協調性の持ち主でした。

もちろん良いプログラマーはたくさんいますが、だいたいみんな頑固でわがまま。天才性が高いほど、関係ない演算式を入れてきたりもする。でもこの子は、協調性が高く、こちらがゲームをおもしろくするために必要だからとお願いしたことをちゃんとやってくれる子だったんです。

この2人は傑出してましたし、特に「協調性が高くて、バグが少ないプログラマー」なんていうのはもう、人類の宝です(笑)。

ただ、冒頭に挙げたデザイナーのように、1つしか持ってないけれども秀でているメンバーが集まっていたからこそ、チームとして成功したのだと思います。

たとえばプランナーは、よく突拍子もないことを言っていました。チームにとってはこれが、すごくありがい存在になっていました。「いまそんなタマ投げ込んだら、ギクシャクしちゃうぞ?」みたいな、常識人なら言えないことを平気で投げてくれる。

世間一般の基準でいえば、完全に空気の読めない子です。でもチームには必要でした。率直に言われることで、それまで意識でいていなかったことにはじめて気づけるようになるんです。

ほかにも、プログラマーを経てプランナーになり、それぞれの職種の半分ぐらいは理解してるという子。プログラムができて絵も描けて企画もできます、みたいな子。最近プログラムを始めたのでとにかく言われたことを、やりきります!みたいな子。

みんながそれぞれ、自分の経験や強みを活かしてくれることで、良いメンバー構成のチームになりました。

大切なのは、できないことをできるようにさせる観点は持たないことですね。みんなで絵を完成させればいいので、何か1つのパートだけのエキスパートになってればいい。そこだけできればあとはもうOK、オールラウンダーである必要はないんですよ。

そしてチームの舵取り役が、そこを見抜く必要もありません。その人の抜きん出てるところなんていうのは、誰が見たって抜きん出てますからね。

2.常に大きなゴールを見据えること

チームづくりって、相当時間がかかるんですよ。ほんと、ずーっとギスギスしっぱなし(笑)。

だからこそ、プロフェッショナルとして信じられる、それぞれの意見が尊重できるメンバーで構成されていることが大切。ぼくがそこでやらなければなかったのは、チームの舵取り役として、常に大きなゴールを見据えること。

目指す先のすり合わせみたいなことを、メンバーと何度も繰り返します。ただ、ぼくだけが大きなゴールを見据える中、みんなは目の前の現実的な数字とかをみているわけで、そこの折り合いはあまりつきません。

「僕の見えているゴールと認識が違うけど、大丈夫?」というやりとりを何度も重ねましたし、ほんとに何回ケンカしたかわかんないですね。

でも、大きなゴールを見据えることこそが、チームの中におけるぼくの役割です。この日程でこの料金でやるには、いまいるメンバーにはもうやってもらうしかないわけで。だからメンバーと意見ぶつかったときは、大きなゴールに影響がない範囲であれば、多少疑問に思うような内容でもできるだけ聞いてあげつつ、進めるようにしていました。

一方、大きなゴールのためにはどうしても譲れないような要求に対しては、チームの舵取り役としてキッパリと拒絶することもありました。「それをやるんなら、全部ひっくりかえって大変だよ。だからここで我慢してくれないか、これはやめてくれないか」と。これをやるのは自分の中で、本当に回数を制限していましたけどね。

そんな感じで、自分の中ではだいぶ譲りながら進めていたつもりですが、正直みんながどれくらい「岡本に拒絶された」と認識しているかはわからないです(笑)。

ただ、このあたりを絶対ブラさなかったことで、『モンスト』は納品も遅れませんでした。やっぱりいろいろ大変じゃないですか、遅れると。そのあたりも舵取り役に求められる役割というか、責任だと思っています。

3.誰もが意見を言いやすい雰囲気をつくること

ゲームづくりに限った話ではありませんが、とことん話し合うためには、全員が思ったことを率直に話せるような環境、雰囲気づくりが欠かせませんよね。

ちなみに、『モンスト』のチームでこの役を担ってくれたのは、ぼくではありません。

当時はまだ事業部でマーケティングを担当していた、MIXIの木村弘毅さんでした。現在代表取締役としてパブリックな場で話す彼の姿しか知らない人には意外かもしれませんが、とにかく明るくてユーモアがあって、場を和ませてくれる人なんですよ。

さっき紹介した協調性の高いプログラマーを、「人類の宝です!」との表現で誉めてくれたのも、木村さん。リーダーシップがあってマーケティングが強かったので、ぼくもとても話がしやすかったですね。

社外の人がマーケティングを語り始めるとMIXI側の立場がなくなるので、そういう意味でも木村さんの存在はありがたかった。

率直に意見を言いやすく、話しやすい雰囲気をつくることの重要性は、一般的なプロジェクトを振り返ってみてもよくわかると思います。

また雰囲気づくりは、良いアイデアを出すためにはもちろんですが、チームの中でガス(不満)がたまることを防ぐためにも重要です。

大切なのは、お互いが納得するまで話せるようにすること。ガスがたまると、最後は絶対「お前とは二度とやらねぇ!」ってなるじゃないですか。舵取り役は、メンバーがそうならないように常に意識しないといけません。

強み一点突破でいい。才能は「最初からそこそこできること」にある

そんなわけで、『モンスト』については単純にメンバーに恵まれた部分が大きいものの、舵取り役として意識した3点が、良いチームづくりにつながったと自負しています。

では、「チームに必要とされる人」になるには?

それは自分の持つ武器、つまり強みは何かを自分自身が理解し、それを磨くこと。そして、それを認めてくれるリーダーにつくか、そういう環境に身を置くこと。

同じ時間勉強するなら、強みのほうが絶対伸びるでしょう。何十年生きてきてダメなところなんか、いまさら治せません。

そして自分の中での強みをいくつか見つけ、それを組み合わせることができたら、それはもうオリジナルの武器になる。個人としてもチームとしても、そのほうが絶対いい。

自分の強みがよくわからないという人は、「苦労しなくてもできたこと」を思い返してみてください。「人に教えるのが下手なこと」も同じですね。自分が苦労せずにできたことって、できない人の気持ちがわからないから、うまく教えられない。それが「強み」です。そこをさらに努力して、伸ばせばいい。

苦手をなくしてジェネラリストになるより、「これしかできない」ほうが、ぼくは良いと思います。お金を払われる理由も、明確ですしね。

というわけで今回は、チームづくりについていろいろお話させていただきました。

ただ、「チームビルディングの全ての問題点は、プロジェクトが大成功すれば解消する」という言葉があるように、結局は終わりよければすべてよし。「いろいろぶつかったけど、なんだかんだいっていいメンバーだったね」と言ってもらえるのは、そういうときです。逆に、どんなに楽しくたって失敗したら、何かが間違ってたわけです。今回の話も、『モンスト』が成功したからできているだけ。

だからこそ、ゲームをつくる以上は、絶対ヒットさせないといけないんです。

最後に、これはゲーム業界が特に酷いだけもしれませんが、「これしかできない子」は、優れている「これ」以外のところが、それはもう、腰抜かすレベルでまったくダメ。冒頭のデザイナーの話は、ゲーム業界「あるあるの一例」でしかないんです(笑)。


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編集協力/コルクラボギルド(文・ぐみ、編集・平山ゆりの)


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