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17億円の負債とうつ。どん底にいたときの耐え忍び方

霞がかかったように、白くぼんやりとしている頭の中。気持ちはずっと落ち込んだままで、銀行から呼び出されるときや診察以外は、家に引きこもって寝て過ごす。不規則な生活で食欲はないのに糖質の多い食事を続けているから、体重は増量していく。

これが、10年ほど前のぼくの毎日です。

これまでの連載ではずっと、「いい感じ」なところをお伝えしてきましたが、今回はぼくがどん底にいたときの忍び方・耐え方について、書いてみます。

経営難で320人をリストラ。17億円の負債を背負うよりもつらかったのは……

ぼくの人生でいちばんの失敗は、会社をしくじってしまったこと。

カプコンを退社し、2003年にゲームリパブリックという会社を創業しましたが、資金繰りなどで苦しみ、17億円の負債を抱えて2011年活動休止に。給料を3ヵ月未払いのままゲーム開発を続け、最期は320人の社員を全員解雇。

めちゃくちゃ叩かれましたし、いまなお恨み言を言われることも多いです。 直接の原因は、ぼくがクライアントからお金を引っ張ってくることができなかったから。本当に申し訳ないし、すべてぼくの責任です。

ただ、事業を失敗してしまったことへの後悔や、負債額の大きさへの恐怖以上に大きなショックだったのは、なぜ、3ヵ月間給料を未払いのままゲーム開発を続けたのか。その意図を、ほぼ全員の社員に理解してもらえなかったことでした。

ぼくとしては社員のためを思って選んだ方法に対する無理解な批判や、後ろ足で砂をかけるような態度に、ぼくの心は想定以上に蝕まれていきました。悲しみから心は戻らず、落ち込んだまま、うつになりました。

なぜ給料を3ヵ月も未払いのまま、ゲーム開発を続けさせたのか

「いやいや、給料払わないで社員にゲーム開発を続けさせるなんて、ブラック企業でしょ。何言ってんだ、岡本は!」

そう思われる方も、少なくないでしょう。ほかの業界だとありえないかもしれません。これは、ゲーム業界であるゆえの選択でした。会社が生き残るためではなく、みんなが再就職しやすくなるための最善手が、ゲーム開発を続け、リリースすることだったんです。

ゲーム開発とは、1作品を完成するのに最低でも2年はかかります。そうなると、会社が倒産するからといって開発を止めてしまうと、担当者の直近2年間の実績が何もないことになってしまいます。

数年間ゲーム開発に携わったのに「実積ゼロ」とは、特に若い人たちにとって、再就職のときに非常に不利になってしまいます。

一方で、何かしらリリースさえできていれば、「このゲームの、この部分を担当していました」と経験者として採用してもらえます。だから、会社がいよいよ危ないとなったとき、彼らの再就職のための、つまり彼らのこれからの人生に対するぼくなりの最善手が、ゲーム開発を続けることだったんです。

それに対する周囲からの非難は、当然起こるだろうとある程度は予測していました。ところが、実際のぼくの心のほうは、想定した以上に軟弱で、耐えることができませんでした。

給与を3ヵ月払わなかった理由をみんなに説明しなかったことが、反発を大きくした原因だったかもしれません。ただ、説明したら理解してくれる人がいただろう一方、「やってられるかよ!」と辞めちゃう人もいたと思うんですね。

そうなると、ゲームは完成しない。制作体制はギリギリの人数でやってますからね。

だから、説明はしませんでした。そのあたりは言わなくても、ちょっとわかってくれそうなもんだと自分に都合よく、期待しちゃったんです……。うまくいかないもんですね。 

会社が立ち行かなくなったことが、「必然」だった理由

会社が立ち行かなくなったこと自体は、なるべくしてなった。そういう感想しかありません。

取引先がリーマンショックで倒産したことで、17億円の未払いが生じました。その結果、ゲームリパブリックに17億円の負債が残っただけ。起きたこと自体には、後悔はないんです。

ただ、欧米で古くからあることわざで、資産運用の世界でも有名な格言である「卵を一つのカゴに盛るな」の通りになってしまったな、と。転んだときにすべてがダメになってしまうから、というわけですが、ぼくの会社はまさに卵(収入源)を、1つのカゴ(会社)に限定した状態でした。

取引先を限定せざるを得なかった理由は、ヒット作がなかったこと。

いま思い返してもゲームリパブリックには優秀なメンバーがそろっていたし、いいゲームをつくっていた。ただ、のちの『モンスターストライク』レベルのヒット作はありませんでした。

ヒット作がなければ、いい依頼がなかなか来ません。だから、少ないなかでもいいオファーを持ってきてくれた大手企業1社に振り切ることになったわけです。

良くても悪くても、予測から外れれば「失敗」 

ぼくにとって失敗とは、「自分の計画した範囲内におさまらないもの全部」なんです。計画どおりに着地しなければ、当初の計画より良い結果が出たとしても、すべて失敗です。

具体的には、計画に対して上振れなら15%、下振れなら10%で「失敗」。上振れが30%、下振れが20%を超えたら、もう「大失敗」です。予想より30%も売れた、なんていうのを大成功とか言ってたら、絶対アカンのですよ。

ホリエモンが昔よく、「想定内です」と発言していましたよね。あの言葉と同様で、計画の立ち上げから運用、そこにまつわるトラブルも全部込み込みで、想定内の出来事であればうまくいっている。逆に、外的要因・内的要因いろいろありますが、予想通りに進まなかったなら、上振れしていても失敗なんです。

だから、リーマンショックの影響で取引先が倒れてその影響を受けたことも、心の防御力が足りず心を壊したことも、まったく予想できなかった。それはぼくにとっての、失敗です。

心がつらいときは、すべてを受け入れること、がんばらないこと 

話を戻すと、社員を全員解雇したあと、ぼくはとにかく失意のどん底にいました。冒頭で語ったように、常に頭の中に霞がかかった状態でクリアな思考力がありませんでした。また、外を歩けるようになるまでは、1年半くらいかかりました。

もしかしたら、当時のぼくと似たような状況にある人が、このnoteを読んでくれているかもしれません。何かの参考になればと、ぼくなりの忍び方・耐え方を紹介させてもらいます。

そういうときは、現実を受け入れるそうなった自分を含め、すべてを認めて受け入れることこそが大切だと思います。 

そして、がんばらないこと。沖縄の方言でいう「なんくるないさ」的な、なるようにしかならない、という気持ちを持つことです。

心がつらいときの時間、ぼくが過ごした方法

そんな時期の時間の過ごし方としておすすめは、読書です。中身は頭には入ってこないでしょうが、それでいいんです。

本を読んで過ごしていれば、実際は家の中で寝て過ごしていただけでも、「いまは知識を得ていて、何かを進めている時間」との気持ちになれます。これが大事。少しでも自分は前に進めていると脳を思わせることで、つらい心は安定していきます。

逆に、やったらアカンのが、ゲーム。「オマエが言うのか」と突っ込まれそうですが(笑)、ゲームをやって過ごすと、「時間を潰してしまった」との罪悪感で、さらに自分を追い詰めてしまうから。「また今日も何もできなかった」「何をやってるんだろう」と自責が強くなり、自分で自分を傷つけてしまうんです。

加えて、ぼくはラッキーなことに、いい心療内科の先生に出会うことができました。当時医師からのアドバイスは、「草原で寝転んで空を見たり、プールに浮かんだりして過ごす」こと。それ自体が有効な手段だったかどうかはわかりません。ただ、「そうやっていたら、よくなれるんだ」と思い込めるものこそが、ぼくには必要でした。

正直なところ、いまもうつから完全回復した状態ではないんです。以前と比べて明らかに「心の防御力」が弱くなっています。防御力が弱いと、いろんなことが笑って聞き流せなくなり、すぐにキレてしまう。

それでも徐々に、よくなっていきました。もちろんこれらは、ぼく自身の体験に過ぎません。ただ、ゲームをつくっている身ながら「ゲームは元気なときに楽しむものだなぁ」と、つくづく思いましたね(笑)。

「自分は世界一不幸」? そんなはずはない

「自殺は考えませんでしたか?」

当時の話をすると、よく聞かれます。負債額も非常に大きかったですからね。自己破産して負債をチャラにすることも、自殺することも、一切考えませんでした。

何か悲しくてつらいことがあると、「世界で一番自分が不幸だ」という気持ちになりやすいですが、そんなわけないじゃないですか。だって80億人中の1位ですよ? いくらなんでも、それは思い込みです。

だから、もっと客観的に。多くの人が、悪いように悪いように考えすぎです。うつはどんな人もなりますし、ダメではない。

ぼくがそうだったからわかるんですけど、頭では理解していても自分はダメだと思ってしまうなら、ダメな自分も丸ごと認めてあげてほしい。そうやってすべてを受け入れたうえで、「こんな自分でもできることはあるよね」と、少しでも前向きに考えてほしいです。

ぼくの場合は、自分の人生はきっとまた上向く。またゲームで勝つんだという、その意識だけはブレませんでした。


次回は、ぼくがここからどのようにして這い上がっていったか。『モンスターストライク』までの道のりについて語ろうと思ってます。

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編集協力/コルクラボギルド(文・ぐみ、編集・平山ゆりの)



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