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『ストII』『バイオ』『モンハン』で目指した、「おもしろさ」を振り返ってみた

人はなぜ、ゲームをするのか? 夢中になって遊べるのか?

おもしろいからです。

ゲームは、エンタメ性なしには成立しません。それは、アプリゲームであろうが、家庭用ゲームであろうが、『TEKKON』のように社会貢献型ゲームとしてWeb3に場所を移しても変わりません。

いくら崇高な理念を掲げたレストランでも、おいしくないと人が集まらないのと同じ。当たり前すぎることですね。

では、「エンタメ性」とは、どうつくるのでしょう?

ぼくが過去に開発したヒット作の中でも特に有名で、いまもなおシリーズの続く『ストリートファイターⅡ』『バイオハザード』『モンスターハンター』を取り上げ、それぞれどんな状況で「おもしろさ」を目指したかをお伝えします。

ゲームセンターのおじさんを助けるには? から生まれた『ストII』

まずは、1991年にアーケードゲームから始まった 『ストリートファイターII』(以下、『ストII』)から。ぼくはアーケード版の開発を担当したのですが、テーマはズバリ、「ゲームセンターを経営するおじさんを助けたい!」。『ストⅡ』は別に、格ゲーをつくりたかったわけではないんです。

どういうことかといいますと、ゲームセンターの経営者のおじさんたちというのは、もともとインベーダーゲームの基板を買い、そればかりをお店に置いてお金を稼いでいた人たちなんですね。70年代後半から80年代前半当時のブームはホントにすごくて、みんな100円玉を数千円分積み上げて、ひたすらインベーダーゲームをやっていた。「日本中の100円玉は、お店の金庫にある」といわれるほどでした。ゲーセンのおじさんたちにとっては、一番いい時代でしたね。

ただ、そこからゲームはちょっとずつ複雑化していき、開発工数も技術もいろいろとかかるようになっていきます。インベーダーゲーム以外のゲームも、置かれるようになりました。

お客さんたちは、あらゆるゲームを楽しめる一方で、店のおじさんは、浮かない顔になりました。

なぜなら、ゲームのプレイ料金は昔のままの100円なのに、基板の値段は上がってしまったから。とはいえ売り上げは変わらないから、お店はどんどん赤字になっていきました。おじさんがお客さんの要求に応えるなら、次のゲームも仕入れないといけません。これは、いけません。負のスパイラルに陥ってしまったのです。

こんな状況のなかでぼくは、このゲーセンのおじさんたちを、まず喜ばせたかった!

お客さん同士が100円かけ合う「対戦型」のゲームで解決

なぜなら、ゲーセンのおじさんの苦境が改善されず資金力がなくなると、ゲームセンターは基板を買えなくなってしまい、売り手である開発会社の力は弱くなってしまいます。そうなると、買い手であるゲームで遊ぶお客さんも満足できなくなってしまうからです。

だから、おじさんにとっての幸せである、売上アップや新しい基板を買わなくて済むようなゲームを提供する。まず、ゲームセンターの売上げをアップできるゲーム開発こそが、必要でした。

シューティングに代表される「2人同時プレイ」のゲームは、1プレイで2倍のお金が取れる良い取り組みでした。ただ、お客さんが上手くなるほど1コインでのプレイ時間が長くなり、儲けが下がっていく問題がありました。

そこでぼくが目をつけたのが、お客さん同士が100円と100円をかけて戦う「対戦型」のゲームでした。これなら、いくらお客さんが上手くなっても、同じ試合時間で片方が確実に100円を払うことになります。

これこそが、「どれだけみんながプレイしても、儲けが下がらないゲーム」の答えではないか。そこから、開発に取り組むことに決めたのです。

ぼくは、「損して得取れ」という商人の考え方が好き。目先の利益はどうでもよく、最後に自分たちが設ける形で商売をしています。

自分から遠い人から、ハッピーにする。ゲームセンターであれば、お客さんではなくおじさんから。次は、お客さんに満足してもらう。すると開発会社もハッピーになり、自分の幸せとして回ってきます。『ストⅡ』の構造は、「損して得とれ」のゲームだったんです。

売れるゲームとは、「不満がない」ゲーム

興味深かったのは、対戦で負けたら普通は腹が立つじゃないですか。でも『ストⅡ』は、すごく強い人と対戦して負けたら「ありがとうございます!」となる。武道の達人と試合をして「学ばせていただいた」という敬意を抱く感覚ですね。

キャッチコピーの「俺より強いヤツに会いに行く」は、ゲーム性そのものを表していました。

ゲーム自体の世界観や中身については、もともと『ストリートファイターI』があってのⅡでしたから、そこを考える苦悩はありませんでした。そのうえで重視したのは、操作性の改善やバランスの調整でした。

売れるゲームとは、「良いゲーム」ではなく「不満がないゲーム」です。だからユーザーにとっての不満を消していく点にはとても注力しました。

まったく予想できなかった『バイオハザード』のつくりかた、売れかた

次に『バイオハザード』(以下、『バイオ』)。ぼくが開発チームに入ったのは、第1作の完成間際というタイミングでした。

そもそも『バイオ』は、カプコンの3Dゲーム本格参入への斬り込み隊長的な役割を背負ったタイトルとして、開発が進められていました。

というのも、当時のカプコンは3Dゲームへの移⾏に完全に失敗していました。3Dの時代にありながら、『ストII』が売れすぎたせいもあり、2Dでやらざるを得ない状況にあったわけです。だから売上げという結果を残すと同時に、「やっぱり、カプコンすごいわ」と一目置かれるゲームでなければならず、戦力を投入して開発を進めていました。

一方で、開発は延期に次ぐ延期で、チームは荒れに荒れ、責任者も去ってしまいます。いよいよ崩壊か⁉︎️ となったタイミングで、急遽指名されたのがぼくでした。

「完成間近で、もうそろそろ仕上る状態」として見せられた開発中の『バイオ』は、正直、操作が難しすぎました。ノタノタしたゾンビの動きが遅く、プレイヤー側の動きも遅いのが、とても操作しづらいんです。「不満があったらアカン」というのがぼくの信条なのに、蹴飛ばしたくなるほどの仕上がりでした。でも、制作チームが一生懸命つくった結果ともわかっていましたから、1週間くらい遊んでみました。

そうしたら、ノタノタとしか動けないゾンビや操作の難しさへの不満が、『バイオ』のコンセプトである「恐怖」につながるのではと思えてきたんです。操作の不満が、怖さを強調していた。「これならいけるかも!と、前のめりになりました。

「怖くなるために必要か・必要でないか」が『バイオ』の基準

「怖くなるために必要か・必要でないか」。判断基準をその1点に絞りました。そう考えると、ノタノタとゆっくりしか歩けないプレイヤーがゾンビに捕まるのは、怖さを増幅する表現としてむしろ、とてもいい。サッサと動くゾンビは、怖くないですからね。

結果論ではありますが、最初にプレイした時の操作が難しいという不満こそが、「いや~!やめてやめて~!」と、ゾンビに遭遇したら足がすくんで動けない自分が再現されている感覚でした。

とはいえ、このゲームが売れるかどうかはまったくわかりませんでした。問屋側も判断できなくて、発売当初の出荷本数は30万本を押し込むのがやっとでした。2Dから3Dへ殴り込み! という売り出し方をしたかったカプコンにすれば、寂しい数字です。ぼく自身もやってしまった…と思いましたし、マーケットにとっても空振り感が否めませんでした。

ところが、1週間経ったら少しだけ注文が入りました。おもしろさをわかる人もいるんだな〜と眺めていたら、その翌週も、さらにその次の週も少しずつ注文が入って。そんな状況がずーっと続いたんです。1万4000~5000枚売れる状況がいつまでも終わらないんですよ。結果、なんと、プレイステーションで初めて、100万枚に到達したタイトルになりました。

『アローンインザパーク』という、同じ視点で遊ぶゲームは存在していました。だから、エポックメイキングそのものではなかったかもしれませんが、新しいジャンルを切り拓いた類の作品になれたのかなという自負はあります。

ソロプレイで遊ぶしかなかったPS2版『モンハン』の落とし穴

最後に、『モンスターハンター』(以下、『モンハン』)ですが、これはもっと悲惨で。会社ではまったく評価されず、悔しい思いもしました。

PSP(プレイステーションポータブル)に移行したぐらいから、『モンハン』シリーズは売れて国民的ヒット作になりました。ただ、ぼくらがやっていたのはPS2まで。一応50万枚は売れたものの、時間とコストは『バイオ』以上だっただけに、まったく自慢できない結果でした。

理由は、ハッキリしています。

PS2の時代は、オンラインプレイがぼくらが想定していた以上に浸透しておらず、ユーザーはオフラインでソロプレイするしかなかった。これに尽きます。ゲーム業界にいると、インフラの進化の速度を目の当たりにしやすいんですよね。一般ユーザーの感覚から離れて、「いける、いける!」と思ってしまう。

『モンハン』は1人で遊ぶものではなく、4人が4マンセルで遊んでなんぼのゲーム。1人で遊ぶ想定でおもしろさを最高に設置していたわけではないのに、PS2時代はいつログインしても誰も入ってこない状況だったわけです。

インフラが浸透するタイミングを読み間違えた

これは、オンラインプレイが可能なインフラが浸透する速度やタイミングを読み間違えた、自分たちの責任です。これは開発者としては絶対外しちゃいけないポイントで、反省すべきミスでした。実際、ぼくらがカプコンを卒業したあと、後輩たちは「PSPでBluetoothにつなぐ」という画期的なアイデアによって、後継シリーズを大ヒットさせたわけです。

いまの『モンハン』では、当初ぼくたちが思い描いたような遊び方をしてもらえていますが、「いつでもつないで、みんなで遊ぶ」ためのインフラが浸透しているであろうタイミングを読み間違えたのは、致命的でした。

自分の周囲はゲーム大好きな人たちばかりだから、世の中の流れよりも速いというズレ自体はある。それ鑑みた嗅覚でいることが開発者なのに、「早すぎましたね…」といった失敗になってしまうんです。

ホームランへの道は「打席数」と「フルスイングのための基礎」

「なぜそんなに長年、さまざまなジャンルでヒット作を出し続けられるのですか」。そう聞かれることがあります。確かに、ぼくはゲームクリエイターとして成功しているといえるでしょう。でも、ヒット作ばかり出しているというのは勘違い(笑)。ずっと続くシリーズもあるから、そんなふうに見えるだけ。失敗も多いです。『モンハン』の事例でもおわかりでしょう。

たくさんの大ヒット作を出す、つまりホームランを何本も打ってこれたのは、圧倒的な回数の打席に立ち続けてきたからです。打席に立つ回数が多いとは、ゲームをつくれる機会が多いということ。母数が多い分、自ずとホームランも増えるものです。

それでも、ホームランボールが場外までとぶことなんて滅多にありません。

クリエイターに大切なのは、いいチャンスやいいタイミングがきたときに、ちゃんとバットを振る・バットコントロールをするなどフルスイングできる基礎ができているかどうかです。

弱気なスインングをしてもダメだし、誰の意見も聞かないのも、聞きすぎるのもダメ。新しいモノや価値を生み出していく世界で勝負する以上、打席に立ち続け、フルスイングの土台となる基礎力も磨き続けるしかないのです。

というわけで、今回はここまで。次回は、ぼくが経験を重ねて体系化した「ヒットのつくり方」を語ります。


 ブロックチェーン× 社会貢献ゲーム『TEKKON』

編集協力/コルクラボギルド(文・ぐみ、編集・平山ゆりの)


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