マガジンのカバー画像

珠玉集

532
心の琴線が震えた記事
運営しているクリエイター

#ショートショート

大禍津日神の憂鬱 #毎週ショートショートnote「残り物には懺悔がある」

「こんな物しか出せなくて、本当に申し訳ない限りですわ」 店主の悔しげな表情が申し訳なさを物語っている。 「一体どうなすった」 気になった客の男が問いかけた。 「本当なら今の時期は、油の乗った秋刀魚や甘く熟した柿なんかをお出しするんですがね、この異常気象でどうにも出来が良くない。良い物はたいそう値が張るんですわ。お兄さん今日最後のお客だから、残りものしか出せなくてね」 話を聞いた男は「なるほど」と、こちらも申し訳なさそうな顔をした。 男は災害を司る神、オオマガツヒノカミだ

儚い月の向こう側。(#シロクマ文芸部)

 月の色はタバコの煙でグレイに揺れている。まるで今の自分の心を見透かされたようでバツが悪く、月から海に目を逸らす。静まり返った真っ黒な海は、波の音だけが煩いぐらいに響き渡り、その静寂にメスを入れる。月のあかりがぼんやりと辺りを照らす中、砂が靴を重くする。  隣には、タバコを燻らせ海を見つめる彼女が座っている。タバコは僕が作った。手巻きタバコを吸ったことがないという彼女のために巻いて作ったのだ。  イギリスでは普通のタバコは高級品でとても買えないため、僕みたいな学生はときどき

マル秘ってほどでもない創作メモをお見せしたい。

※これから創作を始められる方と楽しく共有したい内容です。 ※ときどき、自分の汚い字を世の中に見せびらかしたくなる私の癖を満足させる目的の記事でもあります。  一時期遠ざかっていましたが、最近また毎週ショートショート(以後毎ショ)のお題で書くようになりました。  以前のように〝毎週必ず〟ではないですが、ちょこっと頭の体操をしたい時に書きます。  久々に、410字にぴったり収める努力をしつつ書き上げるショートショートに取り組んでみて、「そういえばこういう書き方で書いていたな

居ても良い場所(#シロクマ文芸部)

 ※少し修正しました。 「レモンからーい!」と顔をしかめ、いきなり大きな声で叫ぶ琴音。  琴音が握りしめているくし切りされたレモンを乱暴に奪い取り、「食べちゃダメ!」と、思わず手を上げそうになる。  心底怖いのは、私の中の凶器だ。  琴音は3歳の誕生日を迎えたばかりで、まだ完全にオムツも取れていない。なのにイヤイヤ期に突入したようで、服を着せるのもオムツを履かせるのも「ヤダッーー!自分でするー」と、一事が万事すんなりと済ませることが出来ない。毎日時間に追われ自分の事は二の

舞う紙片と歌う

気づいた時には遅かった。年季の入ったシュレッダーは、友人からの手紙を8割ほど食べ尽くしていた。すぐに中身を取り出して手紙の紙片を探すが、処分した書類の紙片と混ざり合ってしまっていて簡単には探し出せそうにない。 泣きたい気持ちを抑えて新聞紙を広げ、シュレッダーの紙くずをぶちまけた。ちまちまと手紙の紙片らしきものを摘まんでいく。 そそっかしい自分が嫌になる。大切な友人からの手紙だったのに。数年前までフリーのシンガーソングライターだった友人は、夏と冬に必ず手紙をくれた。その手紙

誘惑銀杏 #毎週ショートショートnote

ある日のこと、ぶらぶら散歩していると、植え込みの辺りに銀杏が一粒落ちていた。 皮は剥けており、艶やかで、ぴかぴか光沢がある。 銀杏の木もないのに、何故ここに銀杏が落ちているのかと考える内、気になって仕方がなくなってきた。 拾って帰ろうと思い近寄ると、つるんとした銀杏の実から手足が伸びて、とことこ道路の方へ歩き出す。 「あぁ君、道路に出たら危ないよ」と声をかけると、こちらを向いてぺこりとお辞儀をし、「道に迷ってしまって」と言うので、「何処の生まれだい」聞けば護国寺だと言

短篇小説『3月85日』

 車のない車道はまっすぐ、傾斜5度ほどのゆるやかなくだり坂で、プラタナスのアーチを飾りながら、僕の悪い眼では永久に続いていると感じる。下へゆくのに、逆に天へのぼるように彼方のほうが光が満ちているように思う。  車がたえず往来しているときは、気づきもしなかった。  空なんか視るよりも不思議とやすらぐので、ときどき来ては交差点のど真ん中にたち、みおろす。 ……だが、いま。  その、僕のアパートから凡そ8分の近所に存在する私的な永遠の象徴に、まさかの邪魔、異物が混入する。二車線

【ほんのり怪談二本立て】『塩をふらない』『溜めこむ』

第一話『塩を振らない』 大好きだった先輩が亡くなった。 高校三年生、まだ十八才という若さだった。 イケメンで明るくて、ちょっと遊び人の噂もあったが、それもまた魅力であり憧れる女子の多い先輩だった。 先輩は大学生の友人達と車に乗って遊びに行き、事故に遭い、そのままあっけなく亡くなった。 先輩の葬儀にはたくさんの人が訪れた。 同級生だけでなく、後輩も、そして他校の人や知らない大学生たちも来ていた。 生前の先輩は付き合いが広く人気者だったから、それは当然のように思えた。 葬儀に

【創作】隣に越して来たもの【守り猫マモル】

【前回のお話】 興味本位で事故現場を見に行った主人公のOLは、それがきっかけで怪現象と体調不良に悩まされるようになる。 続く怪現象と酷くなる体調不良にとうとう限界を感じた主人公。 何を思ったか「恐ろしい思いをしながら部屋に一人でいたくない」という一心で、ペットショップに駆け込む。 そこで「俺を飼えよ、追い払ってやるから」とテレパシーを伝えてくる一匹の猫と出会う。 何度も生まれ変わり霊格が高く、それ故に波長の合う人間(飼い主)と出会えず売れ残っていた猫は、見事主人公に取り憑く悪

【十三弦歌】漁り火

おかげさまで書いたショートショートの数が200を超えたということで、今回は大感謝企画「十三弦歌」をお送りいたします。いいね、や温かいコメントの1つ1つに、とても励まされております。本当に本当に、ありがとうございます…!(感涙) 今回の企画「十三弦歌」は、小さいサイズのお琴「文化箏」の演奏と、詩の朗読、歌唱をミックスしてみたら、面白いかなーという思いつきから始まりました。 今回はオリジナル詩「漁り火」を朗読しつつ、歌い、文化箏を演奏します。そして最後に「漁り火」のイメージの元となったオリジナルショートショート「連なる漁火ノスタルジー」を朗読いたします。 少しの間、楽しんでいただければ幸いです。 …お聞き苦しい点が多々あると思いますが、どうかご容赦いただきたく…m(__)m ★詩「漁り火」 遠い日の海の漁り火 ポリネシア メラネシア 数千年前の古の海 2700海里を進み 島々を見つけた海人の記憶 ポリネシア メラネシア 木の船の上で見つめていた 暗い宇宙に浮かぶ幾千万もの星々の漁火 それは道標だった ポリネシア メラネシア 遠い日の海の漁り火 遠い日の海の漁り火 そのノスタルジアも ★ショートショート「連なる漁火ノスタルジー」 久々の炬燵の温もりと、隣でずっと眠そうにしている弟とのゆるゆるとした会話で、ああここは日本なのだと、やっと強く実感できた。随分前に日本に帰ってきたのにと、おかしくなった。 今年の夏、俺は台湾に長くいた。台湾花布という台湾の伝統的な織物を仕入れる交渉のため。大輪の牡丹を中心に、様々な花が鮮烈に描かれた台湾花布が今も目に焼き付いている。 何とか任務をこなし、へろへろの状態で飛行機に乗った。離陸してすぐ窓を見ると、漆黒の空間に、眩く輝く星が浮いているように見えた。 疲れすぎて幻覚を見たのかと思ったが、同じように窓を見ていた前の席の人が「漁火(いさりび)だ」と呟いた。 信じられなくて、食い入るように不思議な光を見つめた。漁船が魚を集めるために灯す光。漁火。今は亡き父も漁師で、故郷は港町だったから、実家を出る前に何度も目にしたことがある。 しかし、飛行機から見た台湾の漁火は、印象がまるで違っていた。等間隔に並ぶ無数の光の球が、暗闇の中を浮遊している。本気で宇宙だと思った。 記憶にある故郷の漁火は、黒い海面と空を切り分けるように煌々と光り連なる球。船の灯りだと分かっていたからか、俺はあまり感動できなかった。ただ、生きるための営みの印だと思っていた。 目の前に使い込まれた丸い鍋敷きが現れた。しばらくしてから、姉が大きな鍋を鍋敷きの上にどしんと置いた。しゃがんだ姉は、俺と隣にいる三男坊の弟を見つめ、にやりと笑う。 「今年は奇跡が起きました。なんと、カニ入り。今朝余っちゃったからって、分けてもらえた」 姉は父の跡を継いで漁師になり、母が亡くなってからも、漁港近くの実家を1人で守り続けている。頼もしく優しい。遅い正月休みを貰い、実家に集まる次男の俺と三男の弟のために、いつも海鮮鍋を作ってくれる。 メインの具材は、地元の新鮮な海の幸からランダムに選ばれる。今年は大当たり年だ。姉が蓋を開けると、食欲を刺激するカニの香りが広がった。 「おおー、いい匂い。豪勢な。やっぱりカニが王様だ」 「そうね。やっぱり勝てないねカニには」 隣で完全に目を閉じかけていた弟が、ゆっくり目を開いた。 「あ……カニだ……」 「目が覚めるゴージャスな匂いでしょ。じゃ、食べよ。あ、ご飯と取り皿忘れた」 「あ、俺持ってくる。箸は」 「あ、箸も。そこらへんにある割り箸でいいよ」 「ふーい」 空になった鍋を片付けた後は、三兄妹で炬燵に入り、各々好きなことをする。姉は蜜柑を剥き、弟はタブレット端末で読書し、俺はぼうっとしていた。 「あ、姉ちゃん、今もここら辺で漁火見る?」 「うん。夏とか秋にね。毎年見てるよ。私は夜には船、出さないから」 蜜柑の筋を取る作業を止めず、姉はすぐに答えた。 「へー。俺さ、夏の台湾出張の帰りにさ、台湾の漁火を見たんだ。飛行機の中から」 「へー」 「昔、ここで見た漁火と全然違ってて。光が空中に浮かんでるように見えた。本当に星の群れみたいでさ。宇宙が真下にあるような、変な感覚になったよ」 「へー、飛行機からも見えるんだねぇ」 「兄ちゃんも、漁火見たんだ」 タブレット端末を脇に置いた弟は、目の前の蜜柑を手に取った。 「僕も見た。夏に。乗ってた『ハナゴンドウ』っていう人工衛星から」 姉と俺は驚愕して、宇宙飛行士の弟を見つめた。弟は、筋を取らないままの蜜柑を、豪快に頬張る。 「「……宇宙からも、見えるの?」」 2人同時の質問に、もぐもぐと口を動かす弟は、こくりと頷く。飲み込んでから、口を開いた。 「意外とはっきり見えるよ。ぽつぽつって、白い光が真っ黒い海で隊列を組んでて。すぐに漁火だって分かった。懐かしくて、時間忘れてずっと眺めてた。それで、今年は必ず実家帰ろって、思って」 「……3人で、同じもの見てたんだねぇ」 姉のしみじみとした呟きで、3人で桟橋から漁火を眺めた幼い頃を思い出す。漁火がこの世にある限り、この三兄妹がバラバラになることは無いのかもしれない。お爺さんお婆さんになっても、鍋を一緒に食べている絵が浮かんだ。 「なんだかんだで、ずっと同じもん、見続けるんだろうね」 ほっとして一言呟き、目の前の蜜柑に手を伸ばした。 【原作】連なる漁火ノスタルジー https://note.com/nekotoakinosora8/n/n29500d937176

もくじ【マンガ 美大生に明日はない】

~愉快な同級生編~ ■登場人物紹介1 ▶ひっこし ▶新生活は嵐の予感 ▶入学式直前譚 ▶ヨウコソ青春 ▶奇妙奇天烈摩訶不思議サークル勧誘 ▶看護婦のおねえさん ▶少年M ▶印象に残った自己紹介 1人目 ▶印象に残った自己紹介 2人目 ▶印象に残った自己紹介 3人目 ▶牛丼屋童貞 ▶友情のはじまりは ▶はじめて遊ぶ友達には脳みその贈り物を ▶気の合うトモダチ ▶お洒落な友達 ▶風に願うこと ▶ぱのらま奇譚 ▶半地下の教室 ▶新入生研修旅行記 前編 ▶新入生研修旅行記 中編 ▶新

一円玉うらしま太郎

十円玉か百円玉か、少し迷って百円玉を賽銭箱に入れた。鈴を鳴らして拍手とお辞儀。昨日始めた家庭菜園が上手くいきますように、そしてここ一週間ほど小雨や曇天続きの空がすっきり晴れますように、と祈った。 低気圧頭痛でくらくらする頭を上げようとした時、足元に亀がいることに気づいた。私の手のひらにすっぽり収まりそうなサイズ。まだ子亀だ。しゃがんでよく見てみれば、甲羅に一円玉がくっついている。子どもに悪戯でもされたのだろうか。 子亀を手のひらに乗せて、一円玉を取ってあげようとするが取れ

掌篇小説『日曜の女』

 風薫る季節。 「日曜会ってみて頂戴、いいお嬢さんなのよ」  大伯母は家にくると僕に土産のように見合いの話をもってくる。子どもの頃はいつも図鑑を買ってきたものだ。いずれにせよ僕に無用なコレクションであるのに変りはない。  しかし今回は妙だった。見合いの話と云いながら、図鑑の一枚となる筈の相手の写真を手にしておらず。只「いいお嬢さんなのよ」と云われ、住所のみ手渡された。 ◆◇◆  街も眠たげにうすく霞む青天におおわれた日曜、その住所へと独り出かけた。どこかの喫茶店かホテ

連作短編小説「次元潜水士」第9話「ブラックホール・スパゲッティ」

地図描き師の姉妹の潜水 やっと実現する冒険旅行と、これから来るお客さんに胸を踊らせながらスパゲッティを茹でる。スパゲッティも鍋の中で踊ってるなぁなんて浮かれていると、ドアベルが鳴った。 「リン~!手が離せないから出てくれる~?」「はーい」 トングの先でスパゲッティを突っつきながら、双子の妹のリンに来客の対応を頼む。やはりリンが居てくれて助かる。こういう時もだが、精神的な支えになってくれるという意味でも。 私たちは本当の双子の姉妹ではない。厳密に言うと、同一人物。いわゆ