大禍津日神の憂鬱 #毎週ショートショートnote「残り物には懺悔がある」
「こんな物しか出せなくて、本当に申し訳ない限りですわ」
店主の悔しげな表情が申し訳なさを物語っている。
「一体どうなすった」
気になった客の男が問いかけた。
「本当なら今の時期は、油の乗った秋刀魚や甘く熟した柿なんかをお出しするんですがね、この異常気象でどうにも出来が良くない。良い物はたいそう値が張るんですわ。お兄さん今日最後のお客だから、残りものしか出せなくてね」
話を聞いた男は「なるほど」と、こちらも申し訳なさそうな顔をした。
男は災害を司る神、オオマガツヒノカミだった。人間界で美味いもんでも食おうかと下りて来ていたのだ。
ところがたまたま入った店で、自分の気まぐれで発生させた自然災害が原因で、美味い料理が出せないと言われたわけだ。
「神の俺は誰に懺悔をしたら良いもんかね」男が苦々しい顔で呟くと、「今日はお代はいらないよ」と店主が言った。
「何から何まで申し訳ないね」
男のその言葉に、店主は不思議そうな顔をするばかりだった。
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