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ソファでわたしは旅をする

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いつかまた自由に出かけられるその日まで、「空想の旅」をテーマに文章を書いてみることにしました。 趣味や嗜好、旅のスタイルも異なる3人の書き手・べっくやちひろ、中前結花、吉玉サキが… もっと読む
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記事一覧

『ソファでわたしは旅をする』を終了します

2021年4月、中前結花、べっくやちひろ、吉玉サキの3人は「架空の旅」をテーマにしたマガジン『…

吉玉サキ
1年前
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旅の朝

人生でいちばん最初の旅行はいつだろう、と記憶をさかのぼると、あるひとつのシーンが浮かんで…

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大人の社会見学部

「思ったよりむき出しなんだね」 それが、生まれて初めてパンダを目の当たりにした私の第一声…

吉玉サキ
2年前
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住まなかった街も思い出になる。

年下のひとたちと飲むことになった。 会社を辞めてからは、とんとそういうことがなかったから…

中前結花
2年前
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私のクストフ

シンガーソングライター 寺尾紗穂さんの歌う『クストフ』という曲がある。 僕らは旅に出たん…

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あの子にはもう二度と会えないんだ

4年ぶりに会った甥は、ずいぶんと高い位置に顔があった。 今の甥が身長185㎝であることは姉か…

吉玉サキ
2年前
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連載『旅するコットン。』高知の旅【3】

<第1話のお話はこちら> <第2話のお話はこちら> 木綿子は自分のくちびるが、ほんの小さく震えているのがわかった。 けれど相手は岡野だ。恐れや焦りのようなものはまるでない。 ただ、少しの緊張と、“岡野が目の前に座っている”ということへのたまらない気持ちで、胸がいっぱいだったのだ。 「というわけでね……、わたしが高知に行って、建ちゃんに食べてもらいたいと思ったものはこれなの」 岡野はふっと細長いまつ毛の隙間から木綿子を覗き込むようにして、 ほんの少しのあいだ戸惑っていたけ

失くしものの行く末

すこし前、銭湯に櫛を忘れた。祖母からもらって20年近く使っていたものだ。父ゆずりの頑固なく…

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どうか今夜だけは、思いわずらうことなく眠って

「東京に戻ったよ」 亜美ちゃん(仮名)からのLINEを受け取ったとき、私は実家の布団の中にい…

吉玉サキ
2年前
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連載『旅するコットン。』高知の旅【2】

<前編のお話はこちら> 高知はよく晴れていて、七分袖のカットソーの中はすでに汗ばんでいた…

中前結花
2年前
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ただの夜を旅する

夜に出歩くことがめっきり減った。この時期、友達を飲みに誘うのはちょっと気が引けるし、なに…

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八月の夕闇に消える

「おばあちゃん、いいキャラしてるよね」 祖母を知る人は口を揃えて言う。 同居していた母方…

吉玉サキ
2年前
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連載『旅するコットン。』高知の旅【1】

旅エッセイの企画『ソファでわたしは旅をする』で、中前結花が担当する連載小説です。今回は第…

中前結花
3年前
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波とクラゲ

うっすらと目が覚めて、まず聴こえてきたのは波の音だった。ざあーん、ざざああ、ざああ。カモメの声が近づき、また遠ざかっていく。まつげにやわらかい陽の光が降ってくる。洗い立てのシーツの匂いがする。 遠い頭のまま、体をゆっくり起こす。目の前の壁は一面ガラス張りで、その先にどこまでも海が広がっている。薄い雲が一枚かかった空は白く光り、空と海の境界はぼんやりと霞んでいる。 ざざああん、ざあーん。寄せては返す波をしばらく見つめていると、だんだんと目の奥に重力が戻ってきた。そして思う。