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父の根源と面白い先生

 その精神科は予約なしで入れるとおじいちゃん先生から電話で言われた。
 行ってみると受付の方がいないのでどうしたら良いか戸惑った。でも患者さんばかり。
 受付の窓は閉まっているのでこの緑の所に保険証を置くのかな、と思い置いてみた。
 予約なしの所はそうなると5分位で治療が定石と言われているが、先生がゆっくり1人40分診る。従い、私は2時間待った。しかも携帯禁止、何故か萩尾望都先生の漫画ばかり本棚に並んでいる。
 でも不思議とイライラしない。荻尾望都の「ポーの一族」とか初めて読んだが面白い。成程、これが元祖BL漫画か。

 1時間後、受付が突然開いておじいちゃん先生は保険証を受け取った。正解だったようだ。
 絵理は先生に呼ばれると、テーブルが置かれていた。
「今日はどうしましたか?」と聞かれて、「親から逃れたい」、と最初言い、そこからずっと自分が両親に何をされたか話した。
「あなたはひどい家庭に育てられたけど、一人で自分を守って来たんだね。えらかったと思います。」
 それを精神科のお医者さんに言われた時、今まで「絵理ちゃんは幸せなのよーだって離婚もせず、お父さんはしっかり働いて、他のご両親を見て御覧なさいよ、離婚もしている人もいて大変な状況ですよ。絵理ちゃん、私達はとっても幸せな家庭にいるのよ」と何度も何度も言われたから私はてっきり幸せな家庭にいるとずっと信じていた。

「今ご両親いくつ?」
「母が53で父が60です」
「あー残念、まだまだ生きちゃうねえ」と先生は笑っていらっしゃった。

え、両親をそんな風に言って良いんだと驚愕した。

「父は私が母と取っ組み合いの喧嘩になっても、止めず、素通りしていくだけなんです」
「はい。最低な父親ですね。最初からそのような状態だったんですか?」
えっと思いながら、そういえば
「父と母は祖父母が亡くなるまで毎日喧嘩していました。最初父の祖父母が住んでいたから二世帯住宅だったんです。でも亡くなった後は母に何も言わなくなりました。」
「お父さん自分のご両親とは仲が良かったですか?」
「そうですね。特におばあちゃんが大好きでした。」
「なるほど、君のお父さんはね、自分が黙ることで家庭を守ろうとしたんだよね。自分の母親が亡くなったのが悲しくなって失いたくないと思ったんだよね。」

衝撃だった。父は「めんどくさい事には何も関与しない」事が自分の役割だと思っていたのかと。しかもマザコンなんだ。

「え、じゃあ父は母を自分の母親と重ねて傷つけないように、好きなようにすれば良いと思っていたんですね。」
「うん、そうだよ」
「過去に捉われず、ご両親の人生ではなく自分の人生を生きてください。」「あと、ご両親に会わない事」と先生に言われ、絵理は病院を後にした。
 一応ワイパックスという抗不安薬を渡されたが、また薬の袋に変な老人の絵が描かれていてつくづく変な病院だなあと思ったが、あの先生で良かったと思った。

とても清々しい気分になって病院を出た。

その後絵理はそのまま携帯ショップに向かって携帯番号を変えることにした。
「連絡先のデータ移行はいかがなさいますか」
「移行はしなくて良いです」

今住んでいる住居は親にバレているので家を引き払い、良い物件を見つけるまではレオパレスで住居を借りることにした。

とにかく逃げたかった。

レオパレスでしばらく過ごしたら彼が一人暮らしをするということで、一緒に住むことにした。
彼も自分の両親に自分がどこに住んでいるか伝えていないという。

こうして二人とも両親から離れて暮らす事になった。

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