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【ショートショート】円の滝登り

今は明日。
嘘みたいな話だが、日本という国は『日』の二本の屋台骨が倒壊し『三本』と名を改め数年が経とうとしていた。
その影響は大きく経済活動におけるお金の流れが決壊し、円が逆流する『円の滝登り』と呼ばれる現象を誕生させた。
つまりお金に対する価値はひっくり返り、所持金を減らす為に労働し、消費する度にお金を得る仕組みになった。
その社会では常に、一文無しまた多額の借金がある状態が豊かさの象徴となる。ただ、社会の仕組みはひっくり返っても居酒屋に集まる人々が現状にぼやき続ける光景は変わらずそこにあり続けるのだった。
「この店また値下げしてるね、嫌になりますよねこうも値下げが続くと」
「家を建てようにも借金が足りなくてさ。銀行の利息も高額でなかなか預金が減らないし…」
「最近、埋め巣が増えてきてんだって。三丁目の鈴木さんところなんか先月に埋め巣に入られたらしくて五千万置かれたって」
「あーやばい、俺これ以上貯蓄増えたら、いよいよ自己成立しなきゃなんないところまできてるわ」
「俺の会社、超絶プラチナ企業でよ。働けば働く程給料増えていくんだよ…」
店内備え付けのテレビでは負債額が百億を超えるスーパービンボが取り上げられていた。
「いいなぁ。俺の貯蓄三百万くらいサクッと貰ってくれねーかな」
とある世界イベントの組織委員会理事の企業への不正な贈賄が発覚したとニュース速報が流れた。
「チッ。上級国民ばっかり搾取されやがってよ」
皆、慢性的な好景気に喘いでいた。

「じゃ、ぼちぼち行くか」
「今日は俺のおごりだからここの収入は俺が貰っとくわ」

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