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【ショートショート】勝手口な彼女

「私って一度しゃべり出すと止まらないじゃない?それでいつも食べるの遅くって美希のこと待たせちゃうし」
確かに里香はおしゃべり好きで今もフォークに巻かれて持ち上げられたパスタがおざなりになっている。
「別に気にしなくていいよ。里香の話好きだから」
私は無口な方なのでこれは決して嘘では無い。
『ありがと。でも食事としゃべる場所が同じなんて効率悪くない?』
そう聞こえたが里香の口元は今まさにパスタを頬張ろうとしている。「え、ちょっと待って。何これ。どういうこと?」
『だから、口は食べることに専念してもらうことにしたの』
その声は確かに里香から聞こえてくるが口はもぐもぐと閉じたままなのだ。
「専念って…里香、いったい今どこでしゃべってるの?」
『なんだろう…勝手口?口が玄関だとしたら、まるで勝手口みたいじゃないこれって』里香はパンを頬張りながら微笑んだ。
「…腹話術とかそういうこと?」
「アハハ。違うよー。私そんな器用じゃないもん」これは口から発せられた。
「だからどこでしゃべってるの?」
『どこ…ちゃんと名前あったりするのかな』里香は珈琲カップに口を付けながらスマホを操作しはじめた。
気味の悪さと恐怖で気分が悪くなり席を立った。美希大丈夫とどちらかもつかない声が追いかけてくる。
お手洗いの個室に流れ込み、息を整える。
ハンカチで口を押さえ迫り上がってくる物をこらえた。

『一体何なのよ。気色の悪い』

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