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【ショートショート】今日だけの俺

やっと俺の番がやってきた。
本当に長かった。早すぎても遅すぎてもダメだったが29歳というこのタイミングは願ったり叶ったりだ。
まだ6歳の時に巡ってきた別の俺は意味が分からず気がついたらもう終わっていたと嘆いていた。
どうも噂では他の人間は一つの身体を一つの自分で独占出来るようだ。
しかし俺にはそれが出来ない。俺の中に大勢の俺がいるからだ。
身体を支配出来るのが日替わり交代制になっていた。
自身を支配でき『本当の俺』なるその瞬間に到るまでの過程は、人気アトラクションに並ぶ行列みたく人生一度きりのアトラクションのようでもあった。それが観覧車になるか、ジェットコースターになるのかはタイミングの運次第だ。
昨日の自分から渡されたバトンでどんな一日を担当するかが変わる。
限られているからこそ、悔いの無いようにしなければいけない。
どんなアトラクションになってもなるだけ楽しめるようにあらゆるシミュレーションを重ねていた。
本来は寝ている間に交代すると聞いていたが、引き継ぎもなくその時は唐突に訪れた。
真っ白だ。切り替わる時はこういうものなのか。
いや違う、本当に真っ白なのだ。
多くのライトに俺は照らされているようだ。
どうやら大勢の人間に取り囲まれているようだ。
「…閉園じゃないか」

俺は女性を羽交い締めにし彼女の頭に拳銃を押し当てていた。

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