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【ショートショート】杉浦星

「杉浦さーん」私の名が呼ばれる。
人生初の人間ドック。
緊張しながらこれまた人生初の胃カメラを飲み込む。
「え」
モニターを凝視する医者は、思わず漏れた声を置き土産に血相を変え診察室を飛び出した。
呆然が襲いかかり不安が纏わりついてくる頃、白衣を脱ぎスーツ姿の医師が戻ってきた。
「杉浦さん。大学病院で再検査しますので私と一緒に来てください」
ろくな説明も無いまま医院玄関に横付けされた車に強引にねじ込まれた。
診察室に入ってからこの間僅か15分足らず。
この異常事態に説明を求めても「大丈夫、安心してください」とハンドルを握る医師は曖昧な返事に終始した。
大学病院に着くと既に入口に尋常じゃない数の出迎えがあり裏口に通される。
待合の患者でごった返すロビーを横目にVIP待遇よろしく診察室に促されると再度胃カメラを咥える。
先程と違うのはモニタ前には十人以上の病院関係者が群がっていた。
えずきに耐えカメラを飲み込むと、モニタに群がる面々から遠慮のない悲鳴が轟いた。
「こんなことが…信じられない…」
「本当に存在したんだ!」
「すごい!ビルのようなモノが見えるぞ!まるで街だ!」
とにかく説明が欲しいと、ここに連れてきた町医者のスーツ姿を探すが見当たらない。
完全にほったらかしにされ、そして身動きも取れない当事者の元へ、
興奮した面持ちで白衣の医者が近づいてくる。
「落ち着いて聞いてください。貴方は人類、いや宇宙史上初の『ヒトチキュウ』です」
聞き慣れない病気だなと思った。が説明を聞くと違った。
私の体内に知的生命体が存在し、しかもそれらが既に文明を築きあげているという。
人の地球。
即ち体内の生物にとって私は地球と同等の存在であり、更に私が居るこの世界が宇宙という解釈になる。らしい。
その後に続く説明は殆ど頭に入ってこなかった。
どうやら私という存在が解明できればこの宇宙の謎に一筋の光明が差すとか差さないとか。
皆の私を見る目つきが明らかに先程とは違う。
悪戯に人智を超えた存在になってしまい不本意だ。

取り急ぎ私への敬称は『星』になった。

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