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【ショートショート】I4D

ある年配の男は、自身の孫とそう変わらないであろう若い役場の担当者にI4Dの手ほどきを受けていた。
「それではここのゲイズを波長に合わせて、インテレストしてください」
今となってはどんな仕事や各種申請にもI4Dが必須となっている。
男はそのような最新の技術はとうの昔に諦め、何をするにもサポートが必要なのであった。
「ゲ…?ようはここの上に手のひらをあてたらいいんだな」
男はテーブルに埋め込まれている入力装置らしきタッチパネルに手のひらを乗せた。
「いえ、そこではなくこちらのフィーリングマップエリアに手を置き表示されているパトスに合わせてゲイズを動かすんですよ」
担当者が微かに鼻で笑ったように男は感じ取った。
言われるがままにやっとのこと申請を実行したがエラーとなった。どうやら実行時に微かに雑念が混じってしまったらしい。
「くそ、分からない。申し訳ないがオンラインでの申請は出来ないか?」
担当者は抑揚なく申し訳ありませんと前置きすると
「現在はネオパトスでの申請しか対応しておりません。オンライン申請は廃止いたしました」
もう何年も前にね。という言葉の余韻を男はそのイントネーションに感じ取った。
「お手数ですがもう一度最初からやり直してください。郷愁固定に気をつけてください」
そう言って担当者は本来の自分の持ち場へと戻っていった。

セルフ申請窓口に1人残された男は深くため息をついた。
そうか、これは因果応報なのか。
あの頃と同じではないか。
私も若かりし頃、散々バカにしていた。
パソコンを理解できない年長者を。

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