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シュール

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吉田図工のシュール作品です
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2022年7月の記事一覧

-リメイク再掲載-【ショートショート】ハッキリ見えるのに

ある丘に1本の大木がありました。 A氏はその大木をいたく気に入っており まるで自分を見守る存在だと信じ愛していました。 ある日の昼下がり、その大木が望めるカフェのテラス席でA氏は大木への熱い想いをB氏に話しました。 「丘に大木?何を言っているんだい。そんな木どこにも無いじゃないか」 B氏は辺りを見回して答えました。 いやいや、見えているじゃないかとA氏。 2人の主張は一向に噛み合いません。そこに遅れてC氏がやって来ました。 2人は我先にと事情を説明しC氏の答えを待ちました。

-リメイク再掲載-【ショートショート】落札者は誰だ

民間人で初めて宇宙旅行に行った実業家の事をテレビが報じている。 値段の安さとアルコール度数が反比例する缶チューハイをあおりながら 「世の中不公平だなぁ」と、ありとあらゆるモノを棚に上げて男は愚痴を吐いた。 男は『何かで成功したい』という野心があった。 ただその『何か』が定まらず安直な野心に他ならなかった。 昨今の起業は大抵IT業界というきらいがあるが この男、当然そんな知識など持ち合わせていない。 要するにこの男、楽して金を稼ぎたいだけなのである。 視線をテレビ画面から窓へと

【ショートショート】夢 vs 夢

【夢】という言葉の第一解釈を巡り2つの組織の主張は長きにわたり衝突した。 『夢叶う』をスローガンに将来の願望、目標こそが夢の真髄と謳うロマンチスト集団『DCT』と 『夢醒める』を唱え睡眠中に発生する脳活動が見せる幻覚こそ夢の主軸だと説くリアリスト集団『希翔』。 言わば浪漫主義と現実主義が解釈を巡って対立した形だ。 両者はお互いの存在を否定し【夢】の独占を目標に攻防を繰り広げた。 DCTは希翔の若い世代のメンバーに照準を絞り 彼らの夢の中に侵入し夢を叶える素晴らしさを潜在意識に

【ショートショート】ふんどしが見える

ある男。あまり人に胸を張って自慢できない特殊能力がある。 もし彼にその能力は何かと問えばこっそり耳打ちのポーズを取り小声で気恥ずかしく答えるだろう。 「実は…『ふんどしが見える』んです」 確かに男女問わず見えるのだが、色眼鏡のかかった男性諸君はあわよくば羨ましく思うかもしれない。 下着が透けて見えるなどという思春期男子の夢を叶える様な意味では決して無い。 『着衣の上からふんどしが装着されているように見える』というのが正確な所である。 もちろん誰彼構わず見えるという訳ではな

【ショートショート】貯信箱

もしこれが貯金箱ならジャラジャラと音がするのにな。 そんな事を考えならが貯信箱を振った。音はしない。 豚が貯金箱の定番とするなら、貯信箱の定番は犬らしい。 飼い主を信じる従順なイメージからだろうか。 陶器で出来たソレはお座りの格好で何処か見覚えのある忠犬の姿をしている。 『築くは一生、失うは一瞬』と表現されるように もしもの時の為に日頃から信用を貯めて置くことが出来たらどれ程良いか。 その謳い文句に惹かれ思い切ってこれを買ったのだ。少々値は張ったのだが。 それから毎日、ほんの

【ショートショート】現代の地動説

ある教授が投じた1つの理論が『現代の地動説』ではないかと物議を呼んだ。 -『卵が先か鶏が先か』と全く同じ因果性のジレンマ。この事に関して論じる価値も意味も無い- -結果正しかった地動説に例えるのは失礼。あくまで現代の天動説だ- -ケースバイケースの柔軟性を残した状態が一番自然な形なのではないか- と大半の評価は否定的なものであった。 様々な指摘を受けて教授は「やはり私の主張は間違っていたようだ。理論の主張は取り下げ、私の負けを認めたい」と発表した。 するとそれみた事かと各所で

【ショートショート】困る理由

「先生。今日伺ったのは非常に困っていましてお知恵を拝借したいです」 「ほう、それは困りましたね。で、どうなさいましたか」 「実は私、困った人を助けたいのですが私自身が困ってしまい助ける事が出来ないでいるのです」 「なるほど。それではまず貴方自身が誰かに助けてもらいそのお困りを解消してみてはいかがですか」 「それが出来れば困らないのです」 「それは困ったな。一体何故です」 「自分の困りを自力で解消出来ない様では人様のお困りをお助けする資格などありません。私はそう考え

【ショートショート】生産者の顔

『私達が作りました』 ビニールハウス前で並ぶ生産者が印刷されたシールが貼られている。 主婦はしばらくそのシールを眺めると手に取ったトマトを買い物カゴに入れた。青果コーナーを抜け日配品コーナーに差し掛かると 新発売されたばかりの健康食品を見つけ主婦は足を止めた。 手に取って箱の裏に印刷されている生産者の顔を確認すると 開発者と思しき白衣を着た人物の顔は血色が悪く 皮肉にも健康そうに見えなかったのでそっと商品棚に戻した。 本屋にて面白そうな週刊誌は無いかと見出しを確認するサラリ

【ショートショート】『私も検討しますので』

今、とあるセミナーが密かな人気を呼んでいる。 4,50代のスーツ姿のサラリーマンが大半を締める教室で一際ラフな恰好の講師は言った。 「いいですか。令和の時代はもう『丸』なんて言語道断です。昭和平成はもう過去の話なんですよ。駄目です。反感を買うだけです。 …でも分かりますよ。止めたくない訳ですよね、丸。じゃあどうすればいいか」 勿体ぶった空白の間があけられる。 「下です。下なんです。下を止めましょうよ。変えるべきは下なんです」 独特のテンポに皆引き込まれ一様に頷いている。 「じ

【ショートショート】苦手な掃除

少し胡散臭い感じはするが迷っていても何も変わらないと自分に言い聞かせ、えいやと電話をかけた。 「お電話ありがとうございます。フレンドクリーン、山本でございます」 「もしもしあの…広告を見たのですが本当に部屋が片付くのでしょうか?」 「もちろんです。大変ご好評頂いております」 「…ちなみに追加料金などはあったりするのでしょうか?」 「ご安心ください、後になって料金が上乗せされる等は一切ございません。記載にある8千円を後払いで頂いております」 「なるほど。ちなみになんですけど…具