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【ショートショート】夢 vs 夢

【夢】という言葉の第一解釈を巡り2つの組織の主張は長きにわたり衝突した。
『夢叶う』をスローガンに将来の願望、目標こそが夢の真髄と謳うロマンチスト集団『DCTダクト』と
『夢醒める』を唱え睡眠中に発生する脳活動が見せる幻覚こそ夢の主軸だと説くリアリスト集団『希翔』。
言わば浪漫主義と現実主義が解釈を巡って対立した形だ。
両者はお互いの存在を否定し【夢】の独占を目標に攻防を繰り広げた。
DCTは希翔の若い世代のメンバーに照準を絞り
彼らの夢の中に侵入し夢を叶える素晴らしさを潜在意識に植え付ける「ドリームマインドコントロール」を敢行した。
一方、希翔サイドは実現性の乏しい理想ばかりの夢を語るDCTメンバーに向けて夢想から醒め現実を直視する事を促す『パラダイムアラート』で応戦した。
両者の攻防は過酷を極め、あるDCTメンバーは理想の夢の実現を見つめ直し、またある希翔メンバーは心の底からスッと一筋の光のように芽生えた夢に想いを募らせた。
そんな両者の異なる夢と夢とがぶつかり合う。今が朝か夜か、それこそ今が夢か現実かも分からぬほど皆が疲弊し限界を迎えつつあった。
そんな時一つの声明が発せられた。
「この様な誰も幸せになれない醜い争いに発展するとは夢にも思わなかった。夢破れる形になり誠に残念だが我々は我々の理想とする夢から醒める事に決めた」
夢叶う派DCTが事実上の降参を宣言したのである。
夢を抱き現実に抗いきれなかった無念にDCTの面々は膝から崩れ落ち泣いた。
一方、希翔の面々は抱き合って歓喜した。
『夢醒める・希翔』の旗がはためく中、感極まった者たちは口々に叫んだ。

「遂に…遂に俺たちの夢が叶った!」

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