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シュール

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吉田図工のシュール作品です
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2022年6月の記事一覧

【ショートショート】努力

スポットライトを浴びてステージに登壇した彼を満員の観客は拍手で迎える。 鳴り止まない拍手を制する様に右手を上げると彼は静かに語りだした。 「例えば動画配信者やプロゲーマーのように新しい道を切り開き、 そして新しい角度で富を得る時代の寵児にはそんな事で大金を得るなんて というやや邪知深く冷ややかな目が向けられる事が多いと思います。 そして今、私自身が目指している新しい道も彼らと同じく一部の人々からそのような目が向けられる事でしょう。 両親に初めてその意向を告げた時、 『そんな

【ショートショート】魔法の目覚まし時計

-貴方の予想を上回る奇跡の起こし方を提供します- その目覚まし時計の簡素なパッケージには何がどう奇跡なのか具体的な説明は一切書かれていなかった。 『まさに魔法』 と白々しく貼られた装飾シールが胡散臭さを一層引き立てる。 普通ならそんな怪しい商品を買うわけないのだが 普通ではなかった。明日のプレゼンには社の命運が掛かっている。 先方の事務所は初めて訪れる所で根っからの方向音痴の私は 念には念をでいつもより早く家を出たい。 にも関わらず朝にめっぽう弱く、本当に明日だけは遅刻は許

【ショートショート】エコな保冷剤

町外れにあるケーキ屋「Rejadda」 そんな小さなケーキ屋のあるサービスが話題となり 連日行列が途切れることがなかった。 とは言うものの話題の中心にケーキは存在しない。 『当店ではエコな保冷剤を使用しております』 と小さな手製のポスターがケーキが並ぶショーケースの横に掲げられており 皆、その保冷剤を目当てにケーキを買い求めるという不思議な逆転現象が起きていた。 そして最も不思議なのはいざ持ち帰り箱を開けても、そこにはケーキ以外何も入っていないのである。 でもしっかりと冷

【ショートショート】道極水

次に何を飲もうかとメニューを眺めていると思わず目を見張った。 「こ、…このミネラルウォーター1杯でこの値段ですか?」 そこには1杯1万3千円と表記されてあった。 ふらっと入ったバーでマスターも人の良さそうな印象だったのだが、よもやぼったくりのソレなのかと身構えた。 今自分が飲んでいるウイスキーも含め、他のドリンクメニューは至って一般的な価格帯なので一先ず安堵する。 マスターは冷蔵ショーケースから美しい藍色のボトルを取り出しバーカウンターに置いた。 「日本では流通していないフラ

【ショートショート】いつまでに終わりますか

最初は老人から唐突に問われた。 顔見知りの誰かと間違っているらしく「あ、人違いですよ」と対応した。 続けざまに子連れの主婦からすみませんと声を掛けられ丁重に問われた。 「あの、誰かと間違われてませんか?」 しかし偶然にしては気になったので具体的な話を聞こうとしたら主婦はやっぱり結構ですと行ってしまった。 全く意味が分からず、自分の身なりが変なのかと目の前にあった 不動産屋のガラス扉で自分の姿を確認する。 「おい!山田ぁ!いつ終わんだよ!」 ガラの悪い男性が肩を怒らせながら近づ

【ショートショート】兄の背中を追って

私の就職内定祝いで実家の食卓にはご馳走が並ぶ。 「高校、大学に続き遂に会社まで肇兄さんの後を追いかける事になるとはね」 自嘲混じりに言うと兄さんの表情が一瞬だけ曇った様に感じた。 「お父様やお母様の希望にも叶う就職先だ。本当によくがんばったな」そう言い終えた時には笑顔に戻っていた。 「いずれお前が我が財閥を率いる為に必要な基礎を養うのにあそこはもってこいの場所だ。しっかり学んで来い」 妙な事を言ってお父様はグラスのビールを飲み干した。 「そんな…肇兄さんを差し置いて僕がその様