【ショートショート】魔法の目覚まし時計

－貴方の予想を上回る奇跡の起こし方を提供します－

その目覚まし時計の簡素なパッケージには何がどう奇跡なのか具体的な説明は一切書かれていなかった。
『まさに魔法』
と白々しく貼られた装飾シールが胡散臭さを一層引き立てる。
普通ならそんな怪しい商品を買うわけないのだが
普通ではなかった。明日のプレゼンには社の命運が掛かっている。
先方の事務所は初めて訪れる所で根っからの方向音痴の私は
念には念をでいつもより早く家を出たい。
にも関わらず朝にめっぽう弱く、本当に明日だけは遅刻は許されない。
しかしここぞという場面においてしくじりをやらかしてしまうのが
私の恐ろしい所だと自負している。
なので気がつくと藁にもすがる思いでその目覚まし時計を掴んでいた。

開封し現れたその姿は至ってよくあるソレであった。
丸い本体の上にベルが2つ付いている。目覚まし時計をキャラクター化する際に決まって使用されるあの形だ。
本体や説明書を見る限り特別な目覚まし機能を感じる取る事が出来ない。
半ば体よく在庫処分品を掴まされたかと自嘲気味にアラームをセットして床についた。
混濁する意識の中、その奇跡をどこか期待している自分もいた。

「ふざけやがって！」
私は憤りの渦巻く感情で朝を迎えた。最悪だ。
奇跡の魔法は起きないにしても
通常のアラート音すら鳴らない欠陥品だったのだ。
どうしても気になってしまい設定時刻になっても
ピクリとも動かない事を今この目でしっかりと見届けた所だ。