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【ショートショート】努力

スポットライトを浴びてステージに登壇した彼を満員の観客は拍手で迎える。
鳴り止まない拍手を制する様に右手を上げると彼は静かに語りだした。

「例えば動画配信者やプロゲーマーのように新しい道を切り開き、
そして新しい角度で富を得る時代の寵児にはそんな事で大金を得るなんて
というやや邪知深く冷ややかな目が向けられる事が多いと思います。
そして今、私自身が目指している新しい道も彼らと同じく一部の人々からそのような目が向けられる事でしょう。
両親に初めてその意向を告げた時、
『そんなバカな事を言ってないで真面目に就職しろ』と一蹴されました。
しかし私は諦める事無く努力する事を決意しました。
自分にはどのスタイルが適しているだろうかと試行錯誤を繰り返し、ありとあらゆる努力を惜しみませんでした。
もちろん大学生としての本分を疎かにするのは本末転倒、筋違いであると自覚し必死に勉強との両立を図りました。
むしろそれこそが努力の1つであると感じていた所もあります。
友人達が次々と一般企業への就職を決める中、自分自身に不安や迷いを抱き心が挫けそうになった事は1度や2度ではありません。
しかし『まだ誰も開拓し得ない分野で成功する』というその信念を強く胸に抱く事で己を鼓舞し続け何度と無く決意を改め、私はより一層の努力へと邁進していきました。
しかしながらそんな私の姿をみて周囲の者たちは『いい加減に目を覚ませ』と口々に言いました。
そしていつしか私の姿を冷笑し、距離を置いていった者も決して少なくはありませんでした。
私は言葉によって彼らを納得させる事が難しい事だと悟らざるを得ませんでした。
そして同時に努力が実を結び結果を出す事のみが1番の証明の手段であると理解したのです」

いつしか身振り手振りを交え、彼の声量も大きくなっていた。
そしてステージを見守る満員の観客の中には、かつて彼を冷笑していた友人達の姿もあった。

そう、彼の努力は見事に実を結びついに成功を収めたのだ。
今、数多の企業が彼とビジネス契約し、そして彼の努力を評価している。
彼は観客席を見回すと高らかに叫んだ。
「今の私があるのはあの頃の努力のおかげです!」

史上初の『プロ努力家』は右手を突き上げた。

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