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[やれたかも委員会]電気ブラン

その日は、浅草で電気ブランを飲んでいました。田舎から東京に出てきて、オシャレな飲み物に憧れていたんです。
僕の隣には大学の後輩が座っていました。大学時代、一週間だけ付き合った女の子でした。「彼氏の愚痴を聞いてほしい」そう言って僕は呼び出されていました。浅草にしたのは、当時、僕が北千住の近くに住んでいたからです。

他の男に彼氏の愚痴を聞いて欲しいって言うのは、結局、自分に自信がなくなったか、彼氏に幻滅して目移りしているだけか、単なる惚気なのだと思います。僕は彼女の綺麗なロングの髪を褒め、笑顔を褒め、顔も見た事がない彼氏の愚痴を聞きながら、目移りしているだけだと理解しました。

当時、僕は8歳年上の彼女と別れたばかりでした。別れた理由は良くある事です。いつ結婚してくれるのか、私のことは本当に好きなのか、好きなところはどこか、両親に会ってくれないか、もっと早く帰って来れないのか、あたしが改札を出た後にもうちょっとホームで名残惜しそうにたたずんでくれないか。常日頃から恐ろしい程のプレッシャーと闘っていました。

僕が隣に座る女の子との恋心を思い出すのに、電気ブランは一杯だけで十分でした。

僕達は、お互いお酒に弱かったのもあって、北千住の大きな橋をふらふらになって渡っていました。風が強い日でした。40度のウイスキーをあおった後、女の子の泣きはらした濡れた瞳を見た事はありますか?僕はあります。どんな感情になりますか?そうです。キス、したいです。僕は、大胆にも橋の上でキスをしました。

高揚感が鉄砲水となって川をさかのぼり、千住の大橋に打ちつけられました。それ程の心理的衝撃でした。当然、溺れました。今すぐに彼女の服を剥きたい衝動を抑えて、家路を急ぎました。

玄関でお互いの服を剥いて、もつれあいながらベッドに倒れ込みました。手を彼女自身に添えると、水道管が炸裂したような大騒ぎになっていました。「水漏れが起きてるので修理しますね」と僕が言うと「そんなとこ修理したら、もっとあふれちゃうよ」と彼女は言いました。

僕の修理棒を水道口にあてがった時、問題が起きました。全く入らないのです。こんな事は初めてでした。何度やっても入りません。無理にねじ込もうとすると彼女が痛がるのでやめました。そのうち、彼女の水漏れもすっかりおさまり、修理も不要になったようで、始発に乗って帰って行きました。

僕にはやりたかったという気持ちと、ちょっと自分のものが大きめかもしれないという自尊心だけが残りました。あんな経験は後にも先にもあの一夜限りです。

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